解説
『みだれ髪』(新潮社)
商家の娘の烈しい自己肯定は時代原理への無意識の挑戦
歌集『みだれ髪』を発表した1901(明治34)年、与謝野晶子はまだ満22歳だった。その子二十櫛(はたちくし)にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな
それは士族の娘の歌ではなかった。商家の娘の、誇り高い自己肯定の声だった。
男性文学者が自分の「内面」の醜怪さを凝視しようとしていたまさにそのとき、彼女は外見の美と恋愛感情の高揚感を直截(ちょくせつ)に、かつ巧みに歌いあげた。人々は晶子の大胆さに虚を衝(つ)かれ、晶子の率直さに、むしろ恐れを感じた。
泉州堺に生い立った彼女は、江戸中期の町人文化の再発見を行ったともいえるのだが、それは結果として、「男性」性が支配した明治という時代に対する痛烈な批評となった。奇(く)しくも20世紀最初の夏の出来事であった。
内容解説
「その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな」「やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君」誇らかに命がけの恋心と、今この時の自身の美しさを歌いあげた『みだれ髪』は、その恋の相手、与謝野鉄幹が刊行した。大人は眉を顰(ひそ)め、青年は快哉を叫んだ。まさに20世紀を拓いた全399首の歌集に、清新な「訳と鑑賞」、評伝を付加する。
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