前書き

『空から見た 世界の食料生産:人口爆発、気候変動、そして「食」の未来』(原書房)

  • 2025/05/14
空から見た 世界の食料生産:人口爆発、気候変動、そして「食」の未来 / ジョージ・スタインメッツ
空から見た 世界の食料生産:人口爆発、気候変動、そして「食」の未来
  • 著者:ジョージ・スタインメッツ
  • 出版社:原書房
  • 装丁:大型本(256ページ)
  • 発売日:2025-04-22
  • ISBN-10:456207535X
  • ISBN-13:978-4562075355
内容紹介:
これが地球の「食」のリアル砂漠から熱帯雨林まで、6大陸36ヵ国以上を撮影300点超の鮮烈な写真と簡潔な解説付アメリカ、インド、中国の巨大農地(メガファーム)、グローバル食品企業の食… もっと読む
これが地球の「食」のリアル
砂漠から熱帯雨林まで、6大陸36ヵ国以上を撮影
300点超の鮮烈な写真と簡潔な解説付

アメリカ、インド、中国の巨大農地(メガファーム)、グローバル食品企業の食肉加工場、水平線まで続くインドネシアのエビ養殖場、日本の次世代型植物工場――。
圧倒的なスケールをとらえるだけでなく、持続可能な新技術の導入や、稀少資源をめぐる対立、過酷な労働現場など、大量生産がはらむ問題をも写し出す。

食料供給チェーンは世界中に広がり、陸や海を根本から作り変えている。その姿は美しくもあるが、恐ろしくもある。
――マイケル・ポーラン(本書「序文」より)
『雑食動物のジレンマ』著者 「Time」誌が選ぶ「世界で最も影響力を持つ100人」

◆フランスやタイの国土より広い中国北部の黄土高原に広がる段々畑
◆標高約2400mのエチオピアのアムハラ高原でのテフの収穫風景
◆インド、コートカプラの屋外穀物市場
◆ブラジルの最新型コーヒー処理施設
◆コスタリカの燃え盛るサトウキビ畑
◆インド、カシュー開発公社の殻むき作業
◆セネガルのカラフルな塩田
◆苗が移動しながら生長する日本のエアドーム型植物工場
◆「ヨーロッパの菜園」と呼ばれるスペインの巨大温室群
◆クランベリー生産世界一のアメリカ、ウィスコンシン州の農業
◆カナリア諸島の火山灰を利用した伝統的なブドウ栽培
◆モーリタニアのヌアディブ港を埋め尽くす小型漁船
◆ノルウェーのフィヨルドを利用したサケ養殖場
◆中国の海産物の一大供給元である福建省のアワビとナマコの養殖場
◆アメリカ、アイダホ州で15万頭の牛を飼育する世界最大の肥育場
◆タイ、アユタヤのワニ牧場
◆サウジアラビアのルブアルハリ砂漠に広がる円形のアルファルファ畑
◆中国江蘇省で開かれるザリガニ・フェスティバル ほか多数紹介

世界人口を養う巨大食料供給チェーンは、陸や海をも根本から作り変える。その美しくも恐ろしい光景を空撮することで見えてくる「食」のリアルとは。熱帯雨林から砂漠まで6大陸36ヵ国以上、300点超の鮮烈な写真でたどる。
近年、日本の食料自給率の低下や価格高騰が大きな課題となる中で、私たちの「食」はいかにして支えられているのか。その答えの一端を、空からの視点で示すのが『空から見た 世界の食料生産』だ。水平線まで続く農場のスケールや、効率化された加工現場の光景は圧倒的である一方、資源をめぐる対立や過酷な労働環境、環境破壊といった大量生産の影も鮮明に映し出される。
空からの視点を通じて、食の裏側にある地球規模の課題と未来の可能性を可視化する『空から見た 世界の食料生産』より、「はじめに」の一部を抜粋して紹介する。

世界を養う

私たち人類と地球上の無数の生き物とは、特にひとつの能力が際立って違っている。それは道具を生み出したり、仲間を宇宙に送り出したりする力ではない。むしろ、それらを可能にしているのもこの力だと言える。つまり、自ら食料を生産するという、世界を根本的に変えた驚くべき力だ。歴史的に見て、人類がこの能力を手にしたのはそれほど昔ではない。
ジョージ・スタインメッツの写真を見れば明らかなように、人類はメソポタミアの時代から大きく進歩した。農業は今や地球全体で営まれる巨大なビジネスであり、居住可能な土地のおよそ半分が農地として使われている。利用可能な水の70%を消費し、食品の加工、貿易、配送システムを合わせると、世界のエネルギー使用量の3分の1近くを占めている。その大半は化石燃料を燃やすことで生み出される。作物のためにあまりにも大量の地下水を汲み上げたことで、地球の軸が80センチ東に移動したほどだ。また、灌漑のために多くの川を堰き止めて貯水池にした結果、地球の自転速度を遅らせ、1日が0.06ミリ秒延びた。さらに、あまりにも多くの森林、草原、湿地を切り開き、排水し、耕し、作物を植えたので、ハーバード大学の生物学者だったE・O・ウィルソンが「6回目の大量絶滅」と称した事態を引き起こしている。その規模は、約6600万年前に地球上の種の75%を絶滅させた小惑星の衝突と同等だ。


失敗と試練を乗り越えた、人類の創意工夫の記録

スタインメッツは過去10年間、南極を除くすべての大陸で、世界中の食料生産システムの美しさと課題を精力的に撮影してきた。その範囲は巨大食品企業から、今なお世界の食料の3分の1を生産している小規模農家にまで及ぶ。彼は時には風に揺られるパラグライダーに乗り、また最近では最先端のドローンを飛ばして、地表に整然と並ぶ作物や家畜の列を空から見せてくれる。またある時は、私たちの日々の食卓を支える人々を接写する。カシューナッツの殻で黒ずんだインドの女性の手。若い牛と格闘するオーストラリアの牧場労働者の汗と埃にまみれたたくましい前腕。サラダにぴったりのセロリを収穫しながら“ナタの舞”を披露する、ヘアネット姿の農場労働者たち。地球物理学を学んだスタインメッツは農業の芸術性と科学の両方に目を向け、ヨーロッパに向けて野菜を大量に栽培するスペインやオランダの温室から、中世より伝わるレシピに従ってパルミジャーノ・レッジャーノの巨大なチーズが完璧に熟成されるイタリアのチーズ倉庫までを撮影してきた。
本書は、食料を生産するために人類が発揮してきた卓越した創意工夫の記録だ。それは、栄養を摂る必要性だけでなく、砂糖やコーヒー、食べ物を美味しくする香辛料などへの嗜好にも突き動かされてきた。また本書の写真は、人類が自らを養うことに失敗した歴史上の試練も映し出している。人類が少数の作物に依存しすぎたため、土壌の劣化、洪水や冷害、干ばつによってしばしば深刻な飢饉が発生し、当時の偉大な文明のいくつかは崩壊に至った。


未来の「食」を守るための道

私たちの前には、食料を維持するためのふたつの道が延びている。ひとつ目の道は、ジョージ・スタインメッツの写真に鮮明に写し出されている。大規模な農業、少数の農業従事者で、使える技術をすべて駆使して生産を強化し、耕作可能な土地をすべて開拓する。だが、やがて熱帯雨林は消え、地下水は汲み上げ尽くされ、とれる魚はいなくなるだろう。ますます都市化する人類は農業から遠く離れた暮らしを送り、想像もできないほど巨大なグローバル企業が提供する超加工食品に頼るようになる。それも、農業によって排出される二酸化炭素で気候が変動し、作物を育てられなくなればおしまいだ。
本書にはもうひとつの道も示されている。それは、食品に対する意識がますます高まる消費者が進もうとしている道だ。彼らが選ぶのは栄養が多く、農薬が少なく、家畜にも地球にも優しい食品。赤身肉や乳製品、その他のエネルギー消費量の多い食品への需要を減らし続ければ、アマゾンの森林を伐採し尽くしたり、パーム油のためにインドネシアの熱帯雨林を破壊したり、養殖エビのためにマングローブを犠牲にしたりする必要はなくなるかもしれない。
本書の写真は、世界規模の農業の巨大な力と、私たちの食べるものがどのようにやってくるのかを明らかにする。牛肉1ポンド、ニンジン1本、パイナップル1個、スーパーのカートに入るシリアル1箱の背後にある光景を映し出しているのだ。マルサスが言った“宿命の鞭”が今、私たちの背中に迫っている。しかし、私たちには道具がある。技術もある。あとは、地球の健康を取り戻すための食べ方を考えるだけだ。

[書き手]ジョエル・K・ボーン・ジュニア(ジャーナリスト)
『ナショナル・ジオグラフィック』誌の社会部門の元編集主任。著書に『The End of Plenty: The Race to Feed a Crowded World』がある。としたスケッチ画や水彩画で知られる新進気鋭のアーティスト。政治作戦学校(現・政治作戦学院)芸術学部卒業後、屏東大学大学院視覚芸術学修士課程に進学。邦訳書に『台湾 路地裏名建築さんぽ』(エクスナレッジ)がある。
空から見た 世界の食料生産:人口爆発、気候変動、そして「食」の未来 / ジョージ・スタインメッツ
空から見た 世界の食料生産:人口爆発、気候変動、そして「食」の未来
  • 著者:ジョージ・スタインメッツ
  • 出版社:原書房
  • 装丁:大型本(256ページ)
  • 発売日:2025-04-22
  • ISBN-10:456207535X
  • ISBN-13:978-4562075355
内容紹介:
これが地球の「食」のリアル砂漠から熱帯雨林まで、6大陸36ヵ国以上を撮影300点超の鮮烈な写真と簡潔な解説付アメリカ、インド、中国の巨大農地(メガファーム)、グローバル食品企業の食… もっと読む
これが地球の「食」のリアル
砂漠から熱帯雨林まで、6大陸36ヵ国以上を撮影
300点超の鮮烈な写真と簡潔な解説付

アメリカ、インド、中国の巨大農地(メガファーム)、グローバル食品企業の食肉加工場、水平線まで続くインドネシアのエビ養殖場、日本の次世代型植物工場――。
圧倒的なスケールをとらえるだけでなく、持続可能な新技術の導入や、稀少資源をめぐる対立、過酷な労働現場など、大量生産がはらむ問題をも写し出す。

食料供給チェーンは世界中に広がり、陸や海を根本から作り変えている。その姿は美しくもあるが、恐ろしくもある。
――マイケル・ポーラン(本書「序文」より)
『雑食動物のジレンマ』著者 「Time」誌が選ぶ「世界で最も影響力を持つ100人」

◆フランスやタイの国土より広い中国北部の黄土高原に広がる段々畑
◆標高約2400mのエチオピアのアムハラ高原でのテフの収穫風景
◆インド、コートカプラの屋外穀物市場
◆ブラジルの最新型コーヒー処理施設
◆コスタリカの燃え盛るサトウキビ畑
◆インド、カシュー開発公社の殻むき作業
◆セネガルのカラフルな塩田
◆苗が移動しながら生長する日本のエアドーム型植物工場
◆「ヨーロッパの菜園」と呼ばれるスペインの巨大温室群
◆クランベリー生産世界一のアメリカ、ウィスコンシン州の農業
◆カナリア諸島の火山灰を利用した伝統的なブドウ栽培
◆モーリタニアのヌアディブ港を埋め尽くす小型漁船
◆ノルウェーのフィヨルドを利用したサケ養殖場
◆中国の海産物の一大供給元である福建省のアワビとナマコの養殖場
◆アメリカ、アイダホ州で15万頭の牛を飼育する世界最大の肥育場
◆タイ、アユタヤのワニ牧場
◆サウジアラビアのルブアルハリ砂漠に広がる円形のアルファルファ畑
◆中国江蘇省で開かれるザリガニ・フェスティバル ほか多数紹介

世界人口を養う巨大食料供給チェーンは、陸や海をも根本から作り変える。その美しくも恐ろしい光景を空撮することで見えてくる「食」のリアルとは。熱帯雨林から砂漠まで6大陸36ヵ国以上、300点超の鮮烈な写真でたどる。

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