コラム
池内紀「2017この3冊」毎日新聞|『新約聖書 訳と註』田川建三『知らなかった、ぼくらの戦争』アーサー・ビナード『日本のすごい味 おいしさは進化する・土地の記憶を食べる』平松洋子
2017 この3冊
〈1〉『新約聖書 訳と註』全7巻(全8冊)田川建三訳著(作品社・5184~7128円)
〈2〉『知らなかった、ぼくらの戦争』アーサー・ビナード編著(小学館・1620円)
〈3〉『日本のすごい味 おいしさは進化する・土地の記憶を食べる』平松洋子著(新潮社・各1944円)
〈1〉は「マルコ福音書」から「ヨハネ黙示録」まで全七巻全八冊。一語一句細かく、丁寧に検討、権威にとらわれず、既訳の問題点、聖書学者たちの錯誤、解釈のうさん臭さを手きびしく指摘、十三年かけて現代に読まれるべき日本語訳聖書を生み出した。まさしく「山を動かす」ような偉業である。本年度の毎日出版文化賞受賞。選考委員の見識と勇気に敬意を評したい。
〈2〉は幅広く探し出された二十三人の戦争体験談に、それぞれ編著者の鋭いエッセイがつく。元「敵国人」が手引して鮮明な記憶を甦らせ、それが世に流布する「定説」のウソを暴いていく。
〈3〉は北海道から沖縄まで、九年かけて計三十のおいしい食べ物を訪ね歩いた記録。風土に根ざし、根気よい手作業と工夫がもたらした日本の食文化が、イキのいい日本語でつづられている。