1『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』(筑摩書房)
『梁塵秘抄』――この素敵な本は、題で随分ソンをしているように思う。たまに持って歩いていると、若い友人たちから不思議そうな目で見られる。「わっ、さすが、モト古典の先生!」「なにそれ、宗教関係の本?」もの…
『梁塵秘抄』――この素敵な本は、題で随分ソンをしているように思う。たまに持って歩いていると、若い友人たちから不思議そうな目で見られる。「わっ、さすが、モト古典の先生!」「なにそれ、宗教関係の本?」もの…
甘くて苦いラブストーリー村上春樹編訳のラブ・ストーリーが9篇(へん)と、本人の書き下ろし作が一篇、収められた短編集だ。集められたのはシンプルで心温まる作品ばかりでは当然ない。各篇の最後に、村上自身が…
外部を招き入れて理解を実現著者の名前を見ただけで難しかろうと敬遠するのが無難とわかっていながら今回はあえて取り上げる。「天然知能」という言葉で、私が生きものの感覚として大事にしていることを論理的に考…
自分の内部、諦念交えて洞察最初にこう書いてある。「死の日まで、と思って書く。いま七十四歳。でも、四十八歳としよう。パリへすっかり行ってしまった年齢だ。あの時に私は居なくなったのだから」と。日付は2006…
現実と重なるディストピア小説ロシアがウクライナに侵攻を開始したとき、ロシアの現代作家ソローキンは即座にエッセイを発表した。「プーチン 過去からのモンスター」と題されたその文章のなかでソローキンはプー…
「寄らば斬る!」じゃねーよ。おめえが勝手に寄ってきちゃ斬りかかってくるだけじゃんよ。寄ってくんじゃねっつーの。おっしゃるとおりでございます。何が哀しくて、わたくしのそばなんかに小説家のセンセイがたが…
笑って、ワクワクして、勉強にもなって、気がつけばあっという間に読み終えた。エンタメ小説やアクション映画の感想ではない。『古事記』の感想である。『古事記』といえば、八世紀初め頃に成立したと言われる日本…
いつこんな写真が撮られたのだろう。みすず書房は戦後、文京区本郷に小尾俊人によって創立された小さな出版社だ。社名は創立者が「みすずかる信濃」長野県の出身者だからだ。なりは小さいが、真面目に考える読者を…
ロック、ジャズ、昭和歌謡、洋画、邦画、文房具……片岡義男にひらめきを与える「詩神(ミューズ)」はいろいろあるが、珈琲(コーヒー)もその大切な一つだ。片岡義男はいろいろなものに耳を澄ます。店で注文をする…
実は私は、井伏鱒二にファンレターを出して面会を求めたことがある。驚くなかれ、返信が来た。病中につき難しい、とのことだった。当時はノーベル文学賞の候補に名前が出るほどの大作家に、一介の学生が会って何を…