コラム
角田 光代「2023年 この3冊」毎日新聞|<1>楊双子『台湾漫遊鉄道のふたり』(中央公論新社)、<2>サリー・ルーニー『ノーマル・ピープル 』(早川書房)、<3>吉田修一『永遠と横道世之介』(毎日新聞出版)
2023年「この3冊」
<1>楊双子『台湾漫遊鉄道のふたり』(中央公論新社)
<2>サリー・ルーニー『ノーマル・ピープル 』(早川書房)
<3>吉田修一『永遠と横道世之介』(毎日新聞出版)
<1>は、日本統治下の台湾で、日本人作家の千鶴子と台湾人通訳の千鶴が、おいしいものを食べ歩くほのぼのした話かと思って読んだらまったく違う、ずどんと心に重く響く小説で、ラストまで夢中になって読んだ。<2>の凄みは、作者の観察眼と描写力にある。ともに成長していく男女の関係はさほどあたらしくないが、でも彼らを描く筆力が驚くほどに新鮮。<3>には、言葉ではなく、深い喪失と、喪失を抱えて生きる、その意味について描かれている。戦争やパンデミックに翻弄(ほんろう)される昨今、私には本当に必要な読書だった。
しかしながら加齢によって読む量が激減したことを実感した一年でもあった。読み損ねたもののなかにも、すごい本がたくさんあるだろうと、高く積まれた本の山をうらめしげに見てしまう。