書評
『ぼくたちに、もうモノは必要ない。 - 断捨離からミニマリストへ -』(ワニブックス)
「ミニマリスト」その先には
モノを持つとはどういうことか? 本棚いっぱいに本を並べることは、知性を誰かに誇示する行為。アップル製品を身につけることは「優れたセンス」の持ち主であることをアピール。モノを持つことは“顕示欲”を満たすこととイコールなのだ。だが、人はすぐにモノに飽き、また新しいモノを所有したくなる。ゴールはない。どれだけモノを所有したところで、人は幸せになることはできない。
こうしたモノによって“顕示欲”を満たそうとする悪循環を断ち切り、最低限必要なモノしか持たない「ミニマリスト」の生き方を提案するのが本書。
「断捨離」や「ときめき片づけ術」など、モノを捨てることに喜びを見いだす流れの最新版だが、本書は行き過ぎた消費社会への批判ではなく、技術が発達した現代社会への適応、合理主義という立場を取る。捨てられない思い出の品は、デジカメで撮ってデータで残して捨てればいい。古い写真もスキャンすれば捨てられる。必需品はコンビニや通販ですぐ手に入るから、日頃から所有する必要はない。あらかじめモノがなければ、「探しモノ」に費やす時間が減るという指摘は目から鱗(うろこ)である。
著者は、モノの差異で個性をアピールする人々よりも、モノを持たない「ミニマリスト」の方が個性的だと指摘する。これもまさにその通りだ。「ミニマリスト」が新しいスタイルの生き方だから本も売れている。
だが、それはあくまで「今のところ」だ。「ミニマリスト」という生き方もまた“顕示欲”を満たすための行為であると見るとどうだろう。必要なモノしか所有しない最新流行の消費スタイル。人は飽きやすく、現状に満足できないのは著者の指摘するところでもある。「ミニマリスト」がモノを捨てることに飽きたら、次はどこに向かうのか気になるところ。
朝日新聞 2015年8月2日
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