書評
『蓮田善明 戦争と文学』(論創社)
戦地で自決した文人の肖像
蓮田善明という国学者をご存じだろうか。三島由紀夫の『花ざかりの森』を世に送り出し(当時、三島は16歳)、日本ロマン派の保田與重郎(よじゅうろう)と親交を結び、詩人の伊東静雄と出会った。2度、戦地へ赴き、敗戦後、上官を拳銃で撃ち、自決した男。これまで数冊しか研究書のなかった蓮田を、著者は「文人」として論じていく。『古事記』や『本居宣長』といった戦時下の研究者としてではなく、『有心』という小説の読解を通じて、新しい蓮田像を提示する。
それにしても『有心』という小説の、捉えがたい魅力! 日本思想史の上で蓮田善明がいまだにアンタッチャブルな存在ならば、彼の小説こそがその突破口ではないか。
ALL REVIEWSをフォローする