書評

『WOW AIアートが語る世界を変えた55のできごと』(あすなろ書房)

  • 2025/07/03
WOW AIアートが語る世界を変えた55のできごと / AIカランバ!スタジオ
WOW AIアートが語る世界を変えた55のできごと
  • 著者:AIカランバ!スタジオ
  • 翻訳:宇野 和美
  • 出版社:あすなろ書房
  • 装丁:ハードカバー(64ページ)
  • 発売日:2025-04-08
  • ISBN-10:4751532510
  • ISBN-13:978-4751532515
内容紹介:
人とAIが知恵と技術を出し合い、600時間もの対話を経てつくりあげた55枚の絵画。AIが描いた世界初のアート絵本です。

女性軸に…発見、開発、芸術の流れ

55のできごとで歴史を語る大型絵本だが、特徴は女性の活躍だ。

始まりは火の使用、そこから洞窟壁画を描いたアーティストが登場、道具の使用、狩猟から農耕へと続く。次いで車輪、文字、パン焼き(発酵)、ピラミッド、ギリシャ演劇と時は流れる。紀元前500年までは特定の人物は登場しない。

最初に現れる個人は、紀元前479年に死んだ孔子であり、アジアの政治、宗教、道徳に影響を与え続けたとある。紀元前3世紀のアルキメデスは、入浴中に「エウレカ」と叫ぶ姿が描かれる。東洋と西洋を結ぶシルクロードは、商品だけでなく、思想、技術を交流させ、文明発展のカギとなった。

そして859年、ここで驚く。イスラム教徒の裕福な家庭の娘であるアル・フィフリが、父の遺産でマドラサ(イスラム教の高等教育機関)を開校したのだ。ここに世界中から学生や研究者が集まり、20世紀にはこれがカラウィーイーン大学に発展し、今も重要な知の場になっているのである。

時代は進み羅針盤や印刷の登場、地動説や万有引力の発見へと続く定番の間に、避妊具の発明が入る。男性用避妊具は、ツタンカーメンの墓にもあったとのことだが、避妊を考えたのは英国王チャールズ二世の主治医コンドームだ。産児制限や性行為への責任などが生じる。

ここからが本番。1843年に「エイダ・ラブレスと最初のコンピューター」とある。コンピューター・プログラムの基礎を作った女性である。そして、Wi―Fiなどの先駆けとなる暗号化された通信システムを開発したのはへディ・ラマー。デジタル社会の基礎作りに女性が大きく関わったことは、語られてこなかったのではないだろうか。科学者としてのマリー・キュリーの登場は当然だ。

芸術の世界では、1906年に『原初の混沌』を描いたヒルマ・アフ・クリントが抽象芸術のパイオニアとして登場。メキシコの画家、フリーダ・カーロは女性のステレオタイプに疑問を投げかけた。

米国では、エリザベス・アーデンらが婦人参政権を求め、1920年に認められる。ココ・シャネルがコルセットから女性を解放してファッションの基礎を築き、ヴァージニア・ウルフが小説を通してフェミニズムのために闘い、マザー・テレサが弱者に手を差し伸べるという形で女性が社会を動かしていく。平和や豊かな環境を求める活動では、オノ・ヨーコやグレタ・トゥーンベリが活躍する。

もちろん、ダーウィン、アインシュタインは登場するし、歴史を作る力に男女の差などはないのだ。本書は、人間が600時間にわたってAIと対話をし5000点以上もの絵を描かせるところから始まった(エネルギー大量消費)。できごとの選択への、AIの関わりの詳細が示されていないのが残念だ。データに語らせた結果がこれであるのなら面白い。一番知りたいところだ。正直AIが描いた絵は感心しない。それぞれの事柄に関わった人々への尊敬や共感を抱く私たちの仲間、つまり人間の手で描かれたら、本当に心を打つ絵になっただろう。創作は私たちのものである。子どもには、長い歴史をもつ私たち人間の思いを伝えなければいけない。
WOW AIアートが語る世界を変えた55のできごと / AIカランバ!スタジオ
WOW AIアートが語る世界を変えた55のできごと
  • 著者:AIカランバ!スタジオ
  • 翻訳:宇野 和美
  • 出版社:あすなろ書房
  • 装丁:ハードカバー(64ページ)
  • 発売日:2025-04-08
  • ISBN-10:4751532510
  • ISBN-13:978-4751532515
内容紹介:
人とAIが知恵と技術を出し合い、600時間もの対話を経てつくりあげた55枚の絵画。AIが描いた世界初のアート絵本です。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2025年5月10日

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