書評
『つづきの国のワークブック―自分だけの地図をつくろう!』(コクヨS&T)
自分だけの地図づくり
「ここは、まよいの森~」鼻歌まじりで息子が、緑色の木のスタンプをぺたぺた押している。お絵描きの類は、それほど好きではないのだが、ここ数日は熱心だ。
白い大きな紙の上に、線を引く、絵を描く、色を塗る、紙を切って貼る、文字を書く……などなどを繰り返している。
『つづきの国のワークブック 自分だけの地図をつくろう!』は、箱を開けるだけでワクワクする、おもちゃ箱のような本だ。「地図をかこう! どこにもないまちの地図をかこう」という言葉から始まる一冊の絵本と、その絵本の中で描かれた地図と、カラフルな紙やスタンプと、つづきの地図を描くための大きな紙がセットになっている。
まずは絵本を読む。作者である荒井良二さんが、道を描き、バスを走らせ、木のうえに家を作ったり、海の向こうに音の島が見えてきたり……と、自由自在な地図づくりを絵本のなかで見せてくれる。これだけでも、充分に楽しいのだが、子どもだったらきっと言うだろう。
「このつづき、描いてみたい!」
そんな気持ちに応えるように、用意されているのが、紙やスタンプだ。息子もすっかりのせられて、自分の地図を描きはじめた。見本の地図が、お友だちが描いたような絵や線や文字なのがいい。なんだかこれなら自分にも描けそう、とうっかり思わせる親しさが、荒井さんの絵の魅力だ(もちろん、それを大人が表現として提出するのは、立派な絵を描くより、きっとずっとむずかしい)。
「クリオネの絵、かいて」と息子が言うので、小さい紙にクリオネを何匹(なんびき)か描いてやった。最近、水族館で見たばかりなので印象に残っているのだろう。「クリオネのいけ」を地図に作り、私の描いたクリオネを切り抜いて、そこにペタペタ貼っている。
さらに、クリオネと同じ大きさの青い紙を、一匹一匹フタをするような感じで上から重ね、端のほうをセロハンテープでとめて「完成!」。何かと思ったら池の横に「ただしくりおねはときどきしかあえません」と書いている。
暖かくなるとクリオネは展示されない。それを真似たようだ。会えるときには青い紙をめくるという寸法。おお、なかなか工夫しているではないか。
かと思うと、緑色の紙を三角に切って「山」。そこに緑のインクで家のスタンプを押して「どろぼうにみつからないいえ」と看板を出している。
「おなじいろだとね、みえにくいからね」と得意そうだ。動物の保護色をイメージしているのだろう。しかし息子よ、もしかしたらその看板は、出さないほうがいいのではないかしら!?
クレヨンの緑を握るリビングに一本の線伸びて「さかみち」
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2009年05月27日
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