書評
『戯れの魔王』(文藝春秋)
クマさんこと篠原勝之の短編を集めた小説集。たとえば最初に置かれた「蓮葬(はすおく)り」。もう何十年も「鉄」を溶かしたり叩いたりして暮らしてきた「オレ」と「オッカサン」の話。オッカサンは90歳を超え、最期の時も近い。オレはそんなオッカサンとためらいながらも向きあい、2人の記憶をまさぐり、そうかと思えば外国で鉄のオブジェを作っていた時のことを不意に思い起こしたりする。
記憶と現実とが「蓮」の生育を介して緩くつなげられる。オッカサンの死後、主治医から手渡される証明書に「老衰」と書かれていて、それを「たいへんよくできました」と読むあたり、小説らしい小説、と言えよう。ゲージツ家の手すさびではない、本物の小説。
記憶と現実とが「蓮」の生育を介して緩くつなげられる。オッカサンの死後、主治医から手渡される証明書に「老衰」と書かれていて、それを「たいへんよくできました」と読むあたり、小説らしい小説、と言えよう。ゲージツ家の手すさびではない、本物の小説。
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