書評
『前立腺歌日記』(講談社)
ユーモアたたえた闘病記
ドイツに長年住み続けている詩人・四元康祐さんが、タイトル通り、前立腺のガンに罹り、治療を受け、日常生活に戻ってくるまでの日々を、飄々(ひょうひょう)と描く小説。もちろん私小説と捉えてもいいだろう。決して楽観できる状況ではないのに、四元さんの書き方はいつもかすかなユーモアをたたえている。たとえば、前立腺を手術した場合の後遺症は? と医者に尋ねたら、「主に尿漏れと性的不能です」という返事。「あはははは、私は笑った」と四元さんは書く。生きるか死ぬかの話なのに、「漏らすか立つか」の話になっているのがおかしい、と。「漏れと萎えマフラーのごとく靡(なび)かせて三つ子の魂冥途の飛脚」。挿入される歌も秀逸だ。
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