コラム

磯田 道史「2025年 この3冊」毎日新聞|<1>松木 武彦『古墳時代の歴史』(講談社) <2>笠谷 和比古『論争 大坂の陣』(新潮社) <3>関 幸彦『<幕府>の発見』(講談社)

  • 2025/12/16

2025年「この3冊」

<1>松木 武彦『古墳時代の歴史』(講談社)

<2>笠谷 和比古『論争 大坂の陣』(新潮社)

<3>関 幸彦『<幕府>の発見』(講談社)


<1>はトップ考古学者の遺著。最新発掘成果による古墳時代の編年史。古墳出現地はヤマトより東とみる。後漢が滅亡、ヤマトが北部九州を介さず魏と直接接触、親魏倭王が誕生。ヤマトの門閥氏族はキビ(吉備)に分派後、さらに二分。四世紀後半、武器を革新したカハチ(河内)の二大門閥が登場。各地の氏族が男系の大氏族に再編された。古墳考古の重要文献だ。

<2>は豊臣徳川の権力移行を説く。征夷大将軍は唯一の天下人ではない。徳川の天下は家康の将軍就任でも秀忠の将軍継承でも不安定。豊臣秀頼が関白に就任、軍事関白制の天下人が生まれる可能性があった。

<3>は近代史学の舞台裏を明かした一冊。日本史を西洋史の封建制の枠組みにしたい学者が「幕府」用語の利用を思いついたとする。

古墳時代の歴史 / 松木 武彦
古墳時代の歴史
  • 著者:松木 武彦
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(272ページ)
  • 発売日:2025-10-23
  • ISBN-10:4065414709
  • ISBN-13:978-4065414705
内容紹介:
古墳はなぜ造られた?巨大化した理由は?考古学の最前線では既成概念がひっくり返っていた!?はじまりからその終焉まで。本邦初!第一人者が編年体で描いた決定版通史。目次第一章 古墳が… もっと読む
古墳はなぜ造られた?巨大化した理由は?考古学の最前線では既成概念がひっくり返っていた!?はじまりからその終焉まで。本邦初!第一人者が編年体で描いた決定版通史。

目次
第一章 古墳が現れるまで(紀元後一~二世紀)
第二章 古墳はなぜ現れたか(紀元後三世紀)
第三章 古墳はどう拡がったか(紀元後四世紀)
第四章 古墳が巨大化した(紀元後五世紀)
第五章 古墳時代の地域・社会・くらし
第六章 古墳時代はこうして終わった

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論争 大坂の陣 / 笠谷 和比古
論争 大坂の陣
  • 著者:笠谷 和比古
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(240ページ)
  • 発売日:2025-10-22
  • ISBN-10:4106039370
  • ISBN-13:978-4106039379
内容紹介:
「関ヶ原」ではなく「大坂の陣」で家康はようやく天下を取った!「西軍敗戦で豊臣家は一大名に転落」「征夷大将軍は唯一の天下人」「家康は豊臣滅亡を虎視眈々と狙っていた」「方広寺鐘銘問題… もっと読む
「関ヶ原」ではなく「大坂の陣」で家康はようやく天下を取った!「西軍敗戦で豊臣家は一大名に転落」「征夷大将軍は唯一の天下人」「家康は豊臣滅亡を虎視眈々と狙っていた」「方広寺鐘銘問題は言いがかり」「大坂方は騙されて内堀まで埋めさせられた」。諸説せめぎあう中、「二重公儀体制」論を掲げる近世史の第一人者が関ヶ原合戦から「戦国最後にして最大の激戦」に至るまでの真相を明らかにする。

目次
第一章 関ヶ原合戦後の政治世界
第二章 徳川家康の将軍任官
第三章 関ヶ原合戦後における豊臣家と大坂の栄華
第四章 徳川秀忠の将軍就任
第五章 慶長一一年、江戸城築造と豊臣家
第六章 慶長年間の二重公儀体制
第七章 宥和から敵対へ、開戦危機
第八章 二条城会見と三ヶ条誓詞
第九章 大坂冬の陣
第一〇章 大坂夏の陣

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〈幕府〉の発見 武家政権の常識を問う / 関 幸彦
〈幕府〉の発見 武家政権の常識を問う
  • 著者:関 幸彦
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(192ページ)
  • 発売日:2025-10-16
  • ISBN-10:4065413699
  • ISBN-13:978-4065413692
内容紹介:
「幕府」とはそもそも何か――。中国の文献に現れる「幕府」という語が、日本で「武家政権」を示す概念用語として使われるようになったのは、江戸時代後期のことという。ではなぜ、織田信長や豊… もっと読む
「幕府」とはそもそも何か――。中国の文献に現れる「幕府」という語が、日本で「武家政権」を示す概念用語として使われるようになったのは、江戸時代後期のことという。ではなぜ、織田信長や豊臣秀吉の政権は「幕府」と呼ばず、鎌倉・室町・江戸の三つのみを幕府と呼ぶのだろうか。ここに、700年にわたって権力の座にあった「武士」の本質と、その歴史理解に苦慮してきた近代の歴史家たちの格闘の跡が見て取れる、と著者はいう。
たとえば、明治10年に刊行された『日本開化小史』には、「幕府」という用語は出てこない。著者の田口卯吉は、文明史的視点から「鎌倉政府」「徳川政府」あるいは「平安政府」と記しているのだ。では、江戸時代の代表的な史論『読史余論』や『日本外史』ではどうか? 明治期の帝国大学の教科書『国史眼』では「幕府」をどう位置づけているのか?
武家政権の否定から始まった明治国家が、日本中世を西洋中世に比肩する時代と位置づけ、自国史の脱亜入欧を果たすべく編み出したのが、「幕府」すなわち「調教された武家政権」という再定義だった。そして、この「幕府」の概念は明治維新(大政奉還と王政復古)の正当性を規定し、さらに南北朝正閏論争や、現在も続く日本中世史をめぐる議論にも大きな影を落としているのである。
著者の長年にわたる中世武士団研究と、史学史研究を交差させ、「日本史の常識」を問い直す野心作。

目次
はしがき
序章 「幕府」の何が問題なのか?
第一章 幕府・政府・覇府:『日本開化小史』の歴史観
第二章 「幕府」の発見:『読史余論』から『日本外史』へ
第三章 近代は武家をどう見たか:『国史眼』と南北朝問題
第四章 「鎌倉幕府」か、「東国政権」か:中世東国史の二つの見方
終章 「幕府」という常識を問う
あとがき
参考文献

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2025年12月13日

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