書評
『戦後史開封』(産経新聞社)
本音語り始める生き証人たち
半世紀へのカウントダウンを続けている“戦後”。「多様な」とか「著しく変わった」とか「異色の」とか、それこそ戦後史を飾る月並みな形容句はすぐに口をついて出る。だがその実態に迫る鮮やかな切り口となると、これは見つけるのが本当に難しい。戦後史に関してまずは“写真集”の類から出始めているのは、このことをまさに象徴している。百聞は一見にしかずとはよく言ったもの。ビジュアルなものによるインパクトは最も強烈だからだ。だが視覚による驚きから醒(さ)め、今少し戦後史をつっこんでみたいと思う時、人はたちまちにして足踏みを余儀なくされる。
その状態からの開封をねらって企画されたのが本書だ。戦後におきた大小の事象をアトランダムにとりあげながら、いかにも新聞社らしくすべて当時の生き証人の証言による再構成の形をとる。証言者の年齢を考えながら読み進めると、多くの当事者にとって自分の生き様とオーバーラップする“戦後”を、あるいは客観化し、あるいは許せるといった気分になってきつつあるのがわかる。もちろん未だに生涯語らずと口を閉ざす証言者もいないわけではない。しかしそういう人にしても、頑(かたくな)な感じよりは時の流れに身をまかせるという態度に変わってきているのではないか。
具体的には政治経済史から社会文化史まで、全部で三十五の事象を扱っている。今はやりのオタク族ではないが、個々の事象については自分の方が詳しいという人がかなりの程度いるであろう。しかし全部について本書を凌駕(りょうが)する知識をもつ人は稀(まれ)な筈(はず)だ。ここは謙虚に百聞は一見にまさる事象にあたってみよう。評者はと言えば、阿南家の日々・帝国ホテルにて・受験戦争といった社会事象、即席ラーメン・女性の性革命・ミニスカートといった文化事象、血のメーデー・勤評闘争といった政治事象の証言に興味を惹(ひ)かれた。今後とも取材班の努力が続けられることを祈ってやまない。
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