書評
『ノンフィクションにだまされるな! 百田尚樹『殉愛』上原善広『路地の子』のウソ』(にんげん出版)
読者の信頼を失う事態を見過ごしてはいけない
Wikipediaなどからのコピー&ペーストが複数箇所存在することが問題視された百田尚樹『日本国紀』だが、いくら版を重ねても、参考文献が一向に記載されない。百田は「いくつかのミスはあり、版を重ねる時に修正しました。どこかの時点で、どこを修正したか発表しないといけない」(朝日新聞・2019年5月22日)と答えたが、その後、発表されていない。誰もが本を読む時代ではない。出版業界に住む自分は、「なんか出版界っていい加減だよね」と思われたくないと強く感じる。だからこそ、この問題をあちこちで問うてきた。呆れ顔で放任する業界人も多いのだが、彼らにこそ呆れてしまう。
本書は、百田による、やしきたかじんを看取った女性を主人公にした“ノンフィクション”作品『殉愛』と、部落を題材にノンフィクション作品を重ねてきた上原善広が自分の父親を描いた評伝『路地の子』、この2作品の矛盾点を徹底的に洗い出す。
『殉愛』では「生前、親交のなかったたかじんさん」と書いているのに、本書をめぐる裁判の場で百田は「私はたかじんさんとは何度も仕事をしたことがあります」と答えている。こういった粗雑な言質が積もっている。それなのに、彼自身は「すべて真実」と言い張る。明らかに土台が崩れているのに、土台は崩れていないと大声で主張する。『日本国紀』も同じ状態だ。
上原善広『路地の子』を、角岡は「酷い本」と言い切る。「被差別部落出身という御旗(みはた)があれば、同胞の出自を書くことは許されるとでも考えているのだろうか」と上原の姿勢を問い、読者の知識が乏しいからと創作を混ぜ込む筆致を疑う。
出版界の信頼が問われている。逃げ切りを許さない、著者の執拗な問いかけに打たれた。
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