書評
『城割の作法: 一国一城への道程』(吉川弘文館)
城で読み解く時代の転換
城をめぐる武装解除の歴史が本書のテーマだ。戦国期、勝者と敗者はどう振る舞ったか。権力者は代々、城をどう位置付けたか。各地のアジトが一国一城に集約されて、ようやく太平の世が訪れた。著者の専門は近世史。史料を読み込み、通説にとらわれず時代の流れを浮き彫りにしてきた。「豊臣秀頼」(吉川弘文館)は秀頼を大柄で頭が切れた武将とし、二条城で対面した家康を警戒させて大坂の陣を招いたと結論付けた。
藤木久志ほか編「城破(わ)りの考古学」(吉川弘文館)に収める著者の「徳川の平和と城破り」は、本書の予告編。戦国期、降参の証しには人質、剃髪(ていはつ)などの作法があった。「城割(しろわり)」も同様で、建物を壊し、さら地に戻すことを意味した。
大坂冬の陣の和平交渉では埋める堀の範囲に対する解釈が豊臣と徳川で異なり、一気に全部を埋めた徳川はずる賢いとされてきた。
形式的に城を壊せば降参、とする豊臣。徹底的に破壊し、次の戦争の芽を摘みたい徳川。著者は史料に基づき、両者を対比する。
徳川に強引さはあったにせよ、城に執着してリターンマッチの余地を残したい豊臣は、長い戦乱に疲れて和平を目指す時代の流れを理解できなかったのではないか―。この分析は読みどころだ。
戦国期、2万とも4万とも言われた城を減らそうとする試みは当初、秀吉が進めた。これを徹底させた家康の采配が、戦国を終結。時代を転換させたと著者は説く。
現在の北朝鮮と米国を見ても、いったん手にした武器の放棄の難しさは時代を超えて共通する。
歴史上の女性の振る舞いも、著者にとって大きな主題だと思う。淀殿や春日局(かすがのつぼね)の生涯を描く単著に加え、大奥などの空間を女性の生活エリアと見なせば何が見えてくるのかを考えてきた。
戦乱で討ち取った首が天守に集められてお歯黒と札を付けられ、その中で女性たちが就寝していた事例なども紹介。戦乱と死は、常にこの時代の女性の隣にもあった。
著者が高埜(たかの)利彦編「近世史講義 女性の力を問いなおす」(ちくま新書)に寄せた「徳川政権の確立と大奥」も併読してほしい。
[書き手] 内田孝(うちだ たかし・京都新聞総合研究所所長)
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