本文抜粋
『中国 異形のハイテク国家』(毎日新聞出版)
新型コロナウイルス感染症の流行から、いち早く立ち直りを見せている中国。アメリカとの貿易戦争の真っ只中にあって、覇権の足がかりにしようとしているのは、ファーウェイ、アリババに代表されるハイテク産業だ。そのひとつ、自動運転技術の躍進もめざましい。町全体を実験場としたプロジェクトはその例だ。丹念な現地取材による中国の「現在」を描き出す、今必読のノンフィクション!
「自動運転車停留所」
しばらく待っていると、一台のタクシーが近づいてきた。一見すると普通の乗用車だが、天井部分にはカメラなど20を超えるセンサーが取り付けられている。
中国配車サービス最大手「滴滴出行」が20年6月に実用化した自動運転タクシー(ロボットタクシー)だ。
運転席に男性が座ってはいるが、ハンドルを触ることは一切、ない。センサーで集めた情報をAI(人工知能)が分析し、最適な車線やスピードを自動で判断しているのだという。
実際に試乗してみた。乗り心地は人が運転するタクシーと何ら変わらない。
車の流れに応じてスムーズに車線変更し、信号に応じた発進、停止も難なくこなす。
歩道には家族連れや、犬を散歩する人など大勢の歩行者であふれているが、ロボットタクシーを気にする人はほとんどいない。
「実際に公道を走っても安全性に何ら問題はありません。信号待ちや走行状態も自然なので、車が自動運転で走っているだなんて、誰も思いませんよ」
運転席に座る安全員の男性は後部座席に座る筆者の方を振り返ってこう語った。
この間もロボットタクシーは混雑する道を時速40キロほどのスピードで走り続けている。運転席では誰も握っていないハンドルだけが右に左に小刻みに動いていた。
自動運転車の開発で最大の障壁になるのは、安全性との兼ね合いから公道での試験がなかなかできないことだ。
しかし、中国ではむしろ積極的に公道試験が推奨されている。
上海市は20年7月、市内浦東新区の繁華街を通る全長30・6キロの公道を使った自動運転車の試験走行を許可したと発表した。大都市の繁華街で自動運転車の走行許可が出たのは中国でも初のケースだ。
河南省鄭州市でも20年8月に全長17・4キロの自動運転バスの専用ルートが開通するなど、各地方政府の誘致合戦は過熱の一途をたどっている。
「まるで中国全土が自動運転の『実験場』となったようだ」。大手日系メーカーの中国駐在員はこうつぶやいた。
中央政府があおり、将来性に期待をかけたメーカーや地方政府が巨額の金を注ぎ込む──。中国の産業政策の典型とも言える構図がここにある。
[書き手]赤間清広
街そのものが大きな実験場――ハイテク産業による中国躍進の理由
2020年9月、上海市の西北部に位置する嘉定区。バスや自動車が頻繁に行き交う片側2車線の道路沿いに、変わった停留所を見つけた。「自動運転車停留所」
しばらく待っていると、一台のタクシーが近づいてきた。一見すると普通の乗用車だが、天井部分にはカメラなど20を超えるセンサーが取り付けられている。
中国配車サービス最大手「滴滴出行」が20年6月に実用化した自動運転タクシー(ロボットタクシー)だ。
運転席に男性が座ってはいるが、ハンドルを触ることは一切、ない。センサーで集めた情報をAI(人工知能)が分析し、最適な車線やスピードを自動で判断しているのだという。
実際に試乗してみた。乗り心地は人が運転するタクシーと何ら変わらない。
車の流れに応じてスムーズに車線変更し、信号に応じた発進、停止も難なくこなす。
歩道には家族連れや、犬を散歩する人など大勢の歩行者であふれているが、ロボットタクシーを気にする人はほとんどいない。
「実際に公道を走っても安全性に何ら問題はありません。信号待ちや走行状態も自然なので、車が自動運転で走っているだなんて、誰も思いませんよ」
運転席に座る安全員の男性は後部座席に座る筆者の方を振り返ってこう語った。
この間もロボットタクシーは混雑する道を時速40キロほどのスピードで走り続けている。運転席では誰も握っていないハンドルだけが右に左に小刻みに動いていた。
自動運転車の開発で最大の障壁になるのは、安全性との兼ね合いから公道での試験がなかなかできないことだ。
しかし、中国ではむしろ積極的に公道試験が推奨されている。
上海市は20年7月、市内浦東新区の繁華街を通る全長30・6キロの公道を使った自動運転車の試験走行を許可したと発表した。大都市の繁華街で自動運転車の走行許可が出たのは中国でも初のケースだ。
河南省鄭州市でも20年8月に全長17・4キロの自動運転バスの専用ルートが開通するなど、各地方政府の誘致合戦は過熱の一途をたどっている。
「まるで中国全土が自動運転の『実験場』となったようだ」。大手日系メーカーの中国駐在員はこうつぶやいた。
中央政府があおり、将来性に期待をかけたメーカーや地方政府が巨額の金を注ぎ込む──。中国の産業政策の典型とも言える構図がここにある。
[書き手]赤間清広
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