書評
『大きな字で書くこと/僕の一〇〇〇と一つの夜』(岩波書店)
没後出版された晩年のエッセイ集と私家版詩集が、合本で文庫になった。読めば魂が揺さぶられる。
加藤典洋氏は若い頃、小説の才能があった。≪君の本質はそれ/小説を書いたこと/でもその後書きつげなかったこと≫(「僕の本質」)。批評家に転じた氏が、病床で書きとめた詩集が『僕の一○○○と一つの夜』である。
戦後の現代詩の気取った決まりをすべてかなぐり捨てた、容赦のない抒情がそこにある。批評家ならではの詩情。
こんなに素直に、そして切実に、言葉を紡ぐ機会が生涯に幾度あるだろう。その機会があったとして、誰がその任に堪えるだろう。解説は荒川洋治氏。≪加藤さんの文章は、いつもとてもきれいで、…ぱっと、明るいのだ≫。同感である。哀悼。
加藤典洋氏は若い頃、小説の才能があった。≪君の本質はそれ/小説を書いたこと/でもその後書きつげなかったこと≫(「僕の本質」)。批評家に転じた氏が、病床で書きとめた詩集が『僕の一○○○と一つの夜』である。
私の代わりに/私のパジャマが吊されている/上半身と下半身は別にされて/…/針金のハンガーにかけられ/…/並んでいる (「パジャマと私」)
今夜は鯖のミソ煮/妻がレシピを見ながら作ってくれる/私が所望し/妻が受け入れた/鯖のミソ煮がどんな出来か/それは作られてみなければ誰にも/わからぬ (「鯖のミソ煮」)
戦後の現代詩の気取った決まりをすべてかなぐり捨てた、容赦のない抒情がそこにある。批評家ならではの詩情。
こんなに素直に、そして切実に、言葉を紡ぐ機会が生涯に幾度あるだろう。その機会があったとして、誰がその任に堪えるだろう。解説は荒川洋治氏。≪加藤さんの文章は、いつもとてもきれいで、…ぱっと、明るいのだ≫。同感である。哀悼。
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