本書は、論点が明快簡潔に提示され、まさしく入門書にふさわしい。
まずは、都市経済の構造が明晰(めいせき)に説かれ、次に伝統的な区分にもとづいて、農業、手工業、交易の特徴と傾向が明らかにされる。農業は「自然の秩序を尊重する」ことを基本とした。手工業は「自然の産物をテクナイ(技巧)によって加工する」ことだった。交易は、「いつでも自分たちに適切に物資が供給される」ために諸都市が交易を監視し、規制し、保護し、推奨するのは当然だった。
ギリシアの人々は都市という枠組みのなかで自分たちの経済活動をどのように理解し、どのように組織していったのか、そこに焦点がある。
生産と交易における進歩は、緩やかで、一定ではなく、上り坂も下り坂もあり、地域や社会層によって常に異なっていた。人口の増大、硬貨製造の拡散、多様化する生業(なりわい)、都市化の進展、輸送力や安全性の改善、識字率や科学的知識の向上などに現れていくという。その世界はより大きな政治的枠組みに開かれていき、「ローマの平和」にまでたどり着く。
古代ギリシアのいとなみから地中海世界帝国が生成する過程は実に分かりやすい。