成立以前の古代から現代まで、ゆうに三千年以上を視野に入れてユダヤ人の歴史を概観している。
歴史が古いだけではない。ユダヤ人は世界中に離散したため、中東から、欧米、ロシアへとグローバルに視野を広げなければならず、一人の研究者が全体を見渡すのは至難の業だ。しかし、少壮気鋭の著者は「主体と構造」という社会学的な切り口から、ユダヤ人の存在様式を歴史的に探っていく。記述は平明だが、決してレベルを落とさない。多くの学者たちの最先端の研究成果を広く参照し、記述の端々に生かしている。
本書最大の特徴は、「組み合わせ」という角度から複雑な歴史を解きほぐしている点にある。ユダヤ人は歴史の様々な局面で周囲の勢力と「組み合わ」さりながら、自らの特性を生かそうとしてきた。ところが現代のイスラエルは「組み合わせなどお構いなしに武力行使を重ね」、敵をひたすら殲滅(せんめつ)しようとしている点で、例外的なのだという。
時事的情報だけに頼ることなく、きちんと歴史をひもといて理解したい読者のために、現在望みうる最良のユダヤ史入門書だ。