書評

『ユダヤ人の歴史-古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで』(中央公論新社)

  • 2025/05/31
ユダヤ人の歴史-古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで / 鶴見 太郎
ユダヤ人の歴史-古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで
  • 著者:鶴見 太郎
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:新書(336ページ)
  • 発売日:2025-01-22
  • ISBN-10:4121028392
  • ISBN-13:978-4121028396
内容紹介:
ユダヤ教を信仰する民族・ユダヤ人。学問・芸術に長けた知力、富のネットワーク、ホロコーストに至る迫害、アラブ人への弾圧―。五大陸を流浪した集団は、なぜ世界に影響を与え続けているのか。… もっと読む
ユダヤ教を信仰する民族・ユダヤ人。学問・芸術に長けた知力、富のネットワーク、ホロコーストに至る迫害、アラブ人への弾圧―。五大陸を流浪した集団は、なぜ世界に影響を与え続けているのか。古代王国建設から民族離散、ペルシア・ローマ・スペイン・オスマン帝国下の繁栄、東欧での迫害、ナチによる絶滅計画、ソ連・アメリカへの適応、イスラエル建国、中東戦争まで。三〇〇〇年のユダヤ史を雄大なスケールで描く。

目次
序章 組み合わせから見る歴史
第1章 古代―王国とディアスポラ(ユダヤ教以前のユダヤ人?―メソポタミアとエジプトのあいだで;ユダヤ教の成立―バビロニアとペルシア帝国;ギリシアとローマ―キリスト教の成立まで)
第2章 古代末期・中世―異教国家のなかの「法治民族」(ラビ・ユダヤ教の成立―西ローマとペルシア;イスラーム世界での繁栄―西アジアとイベリア半島;キリスト教世界での興亡―ドイツとスペイン)
第3章 近世―スファラディームとアシュケナジーム(オランダとオスマン帝国―スファラディームの成立;ポーランド王国との邂逅―アシュケナジームの黄金時代;偽メシア騒動からの敬虔主義誕生―ユダヤ教の神秘主義)
第4章 近代―改革・革命・暴力(ドイツとユダヤ啓蒙主義―同化主義なのか;ロシア帝国とユダヤ政治―自由主義・社会主義・ナショナリズム;ポグロムトホロコースト―東欧というもう一つのファクター)
第5章 現代―新たな組み合わせを求めて(ソ連のなかの/ソ連を超えるユダヤ人―社会主義的近代化;パレスチナとイスラエル―「ネーション」への同化;アメリカと文化多元主義―エスニシティとは何か)
むすび
成立以前の古代から現代まで、ゆうに三千年以上を視野に入れてユダヤ人の歴史を概観している。

歴史が古いだけではない。ユダヤ人は世界中に離散したため、中東から、欧米、ロシアへとグローバルに視野を広げなければならず、一人の研究者が全体を見渡すのは至難の業だ。しかし、少壮気鋭の著者は「主体と構造」という社会学的な切り口から、ユダヤ人の存在様式を歴史的に探っていく。記述は平明だが、決してレベルを落とさない。多くの学者たちの最先端の研究成果を広く参照し、記述の端々に生かしている。

本書最大の特徴は、「組み合わせ」という角度から複雑な歴史を解きほぐしている点にある。ユダヤ人は歴史の様々な局面で周囲の勢力と「組み合わ」さりながら、自らの特性を生かそうとしてきた。ところが現代のイスラエルは「組み合わせなどお構いなしに武力行使を重ね」、敵をひたすら殲滅(せんめつ)しようとしている点で、例外的なのだという。

時事的情報だけに頼ることなく、きちんと歴史をひもといて理解したい読者のために、現在望みうる最良のユダヤ史入門書だ。
ユダヤ人の歴史-古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで / 鶴見 太郎
ユダヤ人の歴史-古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで
  • 著者:鶴見 太郎
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:新書(336ページ)
  • 発売日:2025-01-22
  • ISBN-10:4121028392
  • ISBN-13:978-4121028396
内容紹介:
ユダヤ教を信仰する民族・ユダヤ人。学問・芸術に長けた知力、富のネットワーク、ホロコーストに至る迫害、アラブ人への弾圧―。五大陸を流浪した集団は、なぜ世界に影響を与え続けているのか。… もっと読む
ユダヤ教を信仰する民族・ユダヤ人。学問・芸術に長けた知力、富のネットワーク、ホロコーストに至る迫害、アラブ人への弾圧―。五大陸を流浪した集団は、なぜ世界に影響を与え続けているのか。古代王国建設から民族離散、ペルシア・ローマ・スペイン・オスマン帝国下の繁栄、東欧での迫害、ナチによる絶滅計画、ソ連・アメリカへの適応、イスラエル建国、中東戦争まで。三〇〇〇年のユダヤ史を雄大なスケールで描く。

目次
序章 組み合わせから見る歴史
第1章 古代―王国とディアスポラ(ユダヤ教以前のユダヤ人?―メソポタミアとエジプトのあいだで;ユダヤ教の成立―バビロニアとペルシア帝国;ギリシアとローマ―キリスト教の成立まで)
第2章 古代末期・中世―異教国家のなかの「法治民族」(ラビ・ユダヤ教の成立―西ローマとペルシア;イスラーム世界での繁栄―西アジアとイベリア半島;キリスト教世界での興亡―ドイツとスペイン)
第3章 近世―スファラディームとアシュケナジーム(オランダとオスマン帝国―スファラディームの成立;ポーランド王国との邂逅―アシュケナジームの黄金時代;偽メシア騒動からの敬虔主義誕生―ユダヤ教の神秘主義)
第4章 近代―改革・革命・暴力(ドイツとユダヤ啓蒙主義―同化主義なのか;ロシア帝国とユダヤ政治―自由主義・社会主義・ナショナリズム;ポグロムトホロコースト―東欧というもう一つのファクター)
第5章 現代―新たな組み合わせを求めて(ソ連のなかの/ソ連を超えるユダヤ人―社会主義的近代化;パレスチナとイスラエル―「ネーション」への同化;アメリカと文化多元主義―エスニシティとは何か)
むすび

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2025年4月12日

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