書評
『ホット・ゾーン』(飛鳥新社)
今もなお去っていない危機
本書が最初に刊行されたのは、エボラ出血熱がいまのように知られていない約20年前。それが今年に入ってからのエボラの大流行に伴って復刊された(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2014年)。本書の前半は、エボラ出血熱がどのように発生し、知られるようになったかについて。
1976年、アフリカのザイール(当時)、スーダンで多くの死者を出したのが最初のエボラの流行。当時はまだ知識もなく、医療関係者にも犠牲が出た。
ウイルスの発祥地は、中央アフリカ。エボラと同じ性質のマールブルグ・ウイルスの発祥地ケニアのキタム洞窟に35人の大規模調査団が派遣される。
後半で描かれるのは、アフリカではなくアメリカの首都ワシントン近郊で発生した危機だ。
フィリピンから輸入された500匹の猿の間でエボラらしきウイルスが蔓延(まんえん)。これを、防護服に身を包んだ陸軍の部隊が殲滅(せんめつ)にかかる。軍もあからさまな行動はできない。メディアが嗅ぎ付ければ、大都市はパニックに襲われるのだ。彼らの活躍により、都市部でのエボラ禍という最悪の事態は回避される。
本書が描くのは、かつてない獰猛(どうもう)な感染力と高い致死率を持つウイルスと人類の戦争。その戦争は、今年最激戦の時を迎えている。
過去のエボラ禍では最大の死者数は300人程度。それが今年のアフリカ西部を中心としたエボラでの死者数は、5459人(11月21日WHO発表)に上っている。かつてない規模であることは明白だ。
リベリア、シエラレオネなどでは、ベッド数も足りず、感染者の適切な隔離すら満足にできていない状況。アメリカは、エボラ拡大を阻止するための軍隊を3千人規模に増員する。
日本でのエボラ出血熱関連の報道は、一段落の印象があるが、危機は去っていない。
朝日新聞 2014年11月23日
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