書評
『11/22/63』(文藝春秋)
大統領の暗殺阻止とロマンス
『11/22/63』は、巨匠キングが2011年に発表した超大作。奇妙なタイトルは、1963年11月22日、すなわちジョン・F・ケネディ大統領がダラスで暗殺された日付を意味する。タイムトンネルを使ってこの暗殺をなんとか阻止しようとするのが本書の眼目。その昔、キングは『デッド・ゾーン』で、将来核戦争を引き起こすことになる次期大統領候補の暗殺を目論(もくろ)む超能力者を描いたが、今回はいわばその反対。ただし、こちらの主人公ジェイクは、ごく平凡な高校の英語教師(30代半ばのバツイチ)。行きつけのダイナーの主人アルから、店の奥にある“過去へ通じる穴”の存在を打ち明けられた彼は、半信半疑で穴をくぐり、実際に1958年9月9日へと赴く。
アルによれば、穴を抜けるといつも同じ日時に出る。過去を変えることも可能だが、あらゆる改変はすべて、次に穴をくぐったときにリセットされるという。アルは何度も実験をくりかえし、やがてケネディ暗殺の阻止という壮大な計画に着手したが、病のために中絶。ジェイクにその夢を引き継いでほしいと懇願する……。
JFK暗殺を確実に阻止するには、過去で5年以上過ごさなければならないのがミソ。暗殺の実行犯リー・ハーヴェイ・オズワルドの私生活を観察し、いまだ謎に包まれている事件の真相を探るのと並行して、キングが思春期を過ごした古き良きアメリカの日々がみずみずしく描かれる。その中核に位置するのが、ダラスにほど近い小さな町で、ジェイクが臨時の高校教師として勤務する時期のエピソード。学生演劇の顧問となって舞台を成功に導き、運命の恋人セイディーと出会い、そして2人で夢のようなダンスを踊る。暗殺阻止のサスペンス以上に、この(ジャック・フィニイ風の)ラブ・ロマンスがすばらしい。
歴史改変SFとしては古典的な部類に属するが、“リセット可能な現実”という設定と正面から向き合った鮮やかな結末は、深く胸に沁(し)みる。2段組上下巻合計1000ページ超の長さもまったく苦にならない、極上のエンターテインメントだ。(事務局注:書評対象は単行本)
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