前書き
『コーヒーの歴史』(原書房)
「スペシャルティコーヒー」という言葉をよく聞くようになりました。では「サードウェーブコーヒー」「エシカルコーヒー」はご存知でしょうか?
現在、コーヒーは世界的に消費量も市場も拡大し、活況を呈しています。新しい飲み方、新しい考え方がどんどん生まれています。その一方で、コーヒーに関する問題も多く指摘されています。コーヒー農家の貧困と高齢化、気候変動の影響、等々。
なぜいまコーヒーが注目されているのか、なぜ新しいコーヒーが求められているのか――コーヒーの歴史を知ることは、最新のコーヒー事情を理解し、また、より深くコーヒーを味わうのにきっと役立つことでしょう。
50点を超える『「食」の図書館シリーズ』の最新刊『コーヒーの歴史』の序章(一部)を公開します。
コーヒーノキはエチオピアの森からラテンアメリカの「フィンカ」[かつてのスペイン領植民地における伝統的大農園(アシエンダ)のうち、グアテマラのものをこう呼ぶ]へと旅し、オスマン帝国のコーヒーハウスで盛んに飲まれた。現代においては「サードウェーブ」[コーヒー第3の波。インスタントコーヒー、シアトル系コーヒーに次ぐ、コーヒー本来の価値を重視しようとする潮流。厳選した高品質の豆を自家焙煎し、一杯ずつハンドドリップする]のカフェで味わわれ、さらにはコーヒーを淹れるポットに代わりカプセル式のコーヒーマシンが登場した。
本書『コーヒーの歴史』は、歴史家がコーヒーの歴史をたどるという点においてユニークであり、世界はどのようにしてコーヒーの味を覚え、なぜコーヒーの味は世界各地で大きく異なるのかを探っていく。そして15世紀に初めてコーヒーを飲んだアラブのスーフィー派の人々から、21世紀のアジアでスペシャルティコーヒーを楽しむ人々まで、どのような人々がコーヒーを飲んだのか、なぜ、どこでコーヒーを飲んだのか、そしてコーヒーをどのように淹れ、そのコーヒーはどのような味だったのかを追う。
さらにはコーヒーが栽培された地域や栽培方法について取り上げ、コーヒー農園で働いた人々、農園所有者、コーヒー豆の精製、貿易、輸送の工程も見ていく。コーヒーの背後にあるビジネス――ブローカー(仲買業者)、焙煎業者、コーヒーマシン製造業者――を分析し、コーヒー生産者と消費者とをつなぐ産業の背後にある地政学までも詳細に検討する。
第1章ではコモディティコーヒー[先物取引市場で扱われる。農園や生産者に関係なく同じ銘柄でまとめられ、世界でもっとも多く流通している「普通の」コーヒー]とスペシャルティコーヒー[品種、生産地などが特定可能で、ユニークな香りや味がする高品質なコーヒー]との区別や、こうしたコーヒーが種子から飲み物へと変身するまでの工程を取り上げる。
コーヒーの歴史は5つの時代に区分される。まずコーヒーはエチオピアからイエメンに伝わって山地の段々畑で栽培されるようになり、インド洋および紅海沿岸のムスリムのあいだで売買されて「イスラムのワイン」として供された。18世紀になるとヨーロッパの人々がこれを植民地の商品とし、農奴や奴隷を使って、インドネシアのジャワ島やカリブ海の島国ジャマイカでコーヒー栽培を行なった。
19世紀後半にコーヒーが工業的に生産されるようになってブラジルでの生産量が急増すると、アメリカで大量消費市場が誕生した。1950年代以降、コーヒーは世界で飲まれるようになった。アフリカおよびアジアが、気候の変化や病害虫に強く、えぐみや苦味の強いロブスタ種を栽培して世界のコーヒー取り引きで大きなシェアを獲得し、このコーヒー豆で安価なブレンドコーヒーが作られ、また水や湯に溶けるソリュブルコーヒーが生まれたのだ。
20世紀末には、コーヒーのコモディティ化に対する動きとして、もう一度コーヒーを「特別な飲み物」にしようとする運動がはじまった。この動きがうまくいけば、これがコーヒーの歴史における第5の時代となるだろう。
コーヒーカップを片手にページをめくり、コーヒーの歴史をじっくりと味わおう。
[書き手]ジョナサン・モリス(歴史家)(龍和子翻訳)
現在、コーヒーは世界的に消費量も市場も拡大し、活況を呈しています。新しい飲み方、新しい考え方がどんどん生まれています。その一方で、コーヒーに関する問題も多く指摘されています。コーヒー農家の貧困と高齢化、気候変動の影響、等々。
なぜいまコーヒーが注目されているのか、なぜ新しいコーヒーが求められているのか――コーヒーの歴史を知ることは、最新のコーヒー事情を理解し、また、より深くコーヒーを味わうのにきっと役立つことでしょう。
50点を超える『「食」の図書館シリーズ』の最新刊『コーヒーの歴史』の序章(一部)を公開します。
ヤギ飼いの森から「サードウェーブ」まで
世界のいたるところでコーヒーは飲まれている。商業的栽培が行なわれているのは4つの大陸においてだが、7つの大陸すべてで非常に人気がある飲み物だ。南極で調査を行なう研究者たちもコーヒーを愛飲し、国際宇宙ステーションにはイタリアのエスプレッソマシンまで備えつけられている。コーヒーノキはエチオピアの森からラテンアメリカの「フィンカ」[かつてのスペイン領植民地における伝統的大農園(アシエンダ)のうち、グアテマラのものをこう呼ぶ]へと旅し、オスマン帝国のコーヒーハウスで盛んに飲まれた。現代においては「サードウェーブ」[コーヒー第3の波。インスタントコーヒー、シアトル系コーヒーに次ぐ、コーヒー本来の価値を重視しようとする潮流。厳選した高品質の豆を自家焙煎し、一杯ずつハンドドリップする]のカフェで味わわれ、さらにはコーヒーを淹れるポットに代わりカプセル式のコーヒーマシンが登場した。
本書『コーヒーの歴史』は、歴史家がコーヒーの歴史をたどるという点においてユニークであり、世界はどのようにしてコーヒーの味を覚え、なぜコーヒーの味は世界各地で大きく異なるのかを探っていく。そして15世紀に初めてコーヒーを飲んだアラブのスーフィー派の人々から、21世紀のアジアでスペシャルティコーヒーを楽しむ人々まで、どのような人々がコーヒーを飲んだのか、なぜ、どこでコーヒーを飲んだのか、そしてコーヒーをどのように淹れ、そのコーヒーはどのような味だったのかを追う。
さらにはコーヒーが栽培された地域や栽培方法について取り上げ、コーヒー農園で働いた人々、農園所有者、コーヒー豆の精製、貿易、輸送の工程も見ていく。コーヒーの背後にあるビジネス――ブローカー(仲買業者)、焙煎業者、コーヒーマシン製造業者――を分析し、コーヒー生産者と消費者とをつなぐ産業の背後にある地政学までも詳細に検討する。
第1章ではコモディティコーヒー[先物取引市場で扱われる。農園や生産者に関係なく同じ銘柄でまとめられ、世界でもっとも多く流通している「普通の」コーヒー]とスペシャルティコーヒー[品種、生産地などが特定可能で、ユニークな香りや味がする高品質なコーヒー]との区別や、こうしたコーヒーが種子から飲み物へと変身するまでの工程を取り上げる。
コーヒーの歴史は5つの時代に区分される。まずコーヒーはエチオピアからイエメンに伝わって山地の段々畑で栽培されるようになり、インド洋および紅海沿岸のムスリムのあいだで売買されて「イスラムのワイン」として供された。18世紀になるとヨーロッパの人々がこれを植民地の商品とし、農奴や奴隷を使って、インドネシアのジャワ島やカリブ海の島国ジャマイカでコーヒー栽培を行なった。
19世紀後半にコーヒーが工業的に生産されるようになってブラジルでの生産量が急増すると、アメリカで大量消費市場が誕生した。1950年代以降、コーヒーは世界で飲まれるようになった。アフリカおよびアジアが、気候の変化や病害虫に強く、えぐみや苦味の強いロブスタ種を栽培して世界のコーヒー取り引きで大きなシェアを獲得し、このコーヒー豆で安価なブレンドコーヒーが作られ、また水や湯に溶けるソリュブルコーヒーが生まれたのだ。
20世紀末には、コーヒーのコモディティ化に対する動きとして、もう一度コーヒーを「特別な飲み物」にしようとする運動がはじまった。この動きがうまくいけば、これがコーヒーの歴史における第5の時代となるだろう。
コーヒーカップを片手にページをめくり、コーヒーの歴史をじっくりと味わおう。
[書き手]ジョナサン・モリス(歴史家)(龍和子翻訳)
ALL REVIEWSをフォローする









![[ヴィジュアル注釈版]オズの魔法使い 上](https://m.media-amazon.com/images/I/51-1NCbIs2L.jpg)

![[図説]食からみる台湾史: 料理、食材から調味料まで](https://m.media-amazon.com/images/I/51GPWcodgnL._SL500_.jpg)

























