書評
『責任 ラバウルの将軍今村均』(筑摩書房)
清々しい読後感
戦犯問題など、世上相変わらずかまびすしいことであるが、とかく評判の悪い旧日本陸軍にも、こんなに清々しい人格の将軍がいたのかと、感銘を受けたのが、今村均大将という人である。第二次大戦中、今村は軍司令官としてジャワ軍政を指揮したが、軍紀は飽くまで厳正、蘭人に対しても礼節を尽した。毎日騎馬で帰宅の途次、ジャワの子供たちが隊伍を組んで敬礼すると今村は微笑みながらこれに答礼したという。また後のインドネシア大統領スカルノも「今村大将は本当の侍だった」と絶賛しているのだから、以ていかに今村が公正無私を貫いたか想像に難くない。
今村は戦後、戦犯として捕えられた将兵らの「将軍」として、常に責任は自らにありと主張し、進んで収容所に入所、毅然として連合軍側と渡り合った。ラバウルでは懲役十年の刑を宣せられ、ついでジャワでも戦犯として訴追される。この裁判中彼は巣鴨に移送され無罪判決を受ける。ところが、ラバウル戦犯がマヌス島の刑務所に移されたことを知るや自ら志願して同刑務所に服役、以て日本兵らの心の支えとなった。
昭和二十八年帰国後は贖罪と鎮魂のため庭に三畳の小屋を作って自らをそこに幽閉しつつ、回想録を綴り、戦犯遺族らの救援に余生を捧げた。
本書は、地を這うような取材に基づいて、戦後に於ける今村将軍の真摯な反省と謝罪の生活に焦点を絞って書かれたもので、一般の軍記ものとは全く性格を異にする。そして、今村について、公正な態度で、批判すべきところは批判しつつ、しかし深い尊敬を以て書かれている。
一読、私は清々しい一脈の水流を掬するにも似た思いを味わった。
初出メディア

スミセイベストブック 2007年1月号
ALL REVIEWSをフォローする



































