書評
『金馬のいななき―噺家生活六十五年』(朝日新聞社)
笑いの半生記に深い哀感
著者は現役最長の高座歴をもち、今年で喜寿を迎える(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆年は2006年)。四代目・三遊亭金馬を襲名して39年になるが、見るからに艶々(つやつや)と若々しく、昭和30年代の国民的人気テレビ番組「お笑い三人組」を楽しんだ私にとって、いまだに小金馬という名前の方が親しみ深いほどだ。「お笑い三人組」で著者が演じたのは、50円で腹いっぱいになる食堂「満腹ホール」の主人・竜ちゃんだった。50円という金額に時代を感じるが、本書を読んで、この設定が、戦前に著者の父母が経営していたその名も「五銭満腹ホール」に由来することを知った。本書の冒頭では、戦前の東京・深川一帯の風景が生き生きと描きだされる。時代と風俗の記録としてまことに貴重である。
著者は12歳で三代目・金馬(「居酒屋」の名人だ!)に弟子入りするが、師匠との出会いと交情を描く部分が本書の大きな読みどころ。とくに師匠の逝去を語る四章末尾は涙なしでは読むことができない名場面だ。
長寿であるだけに、世を去る人々との別れの場面が多いことも本書の特色のひとつである。文楽、志ん生、歌笑、三平、そして親友・志ん朝。笑いを稼業とした人々の死には、つねに深い哀感がある。
朝日新聞 2006年05月28日
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