書評
『球体写真二元論―私の写真哲学』(窓社)
死を生に、瞬間を永遠に
カメラのシャッターを切れば写真はうつる。そのとき写真は外界の反映、つまり現実の「鏡」になっている。しかし、被写体やレンズの選択、アングルや絞りの調節によって、写真家は現実の反映を自己表現に変える。その意味で、写真は、写真家の心の「窓」でもある。この記録と表現、客観と主観の矛盾のなかに、写真芸術のダイナミズムがひそんでいる。細江英公は写真を、客観を北極とし主観を南極とする球体だという。この球体上では、写真家が客観的記録をめざして北極に到達しても、そのまま旅を続ければ、ふたたび主観という反対の極に向かうことになる。そのような写真のありようを、著者は「球体二元論」と名づけるのである。
細江は『ガウディの宇宙』では、石の建築という死んだ物質をまるで生きている皮膚のように描きだし、物質を、死を、肉体化した。
逆に、三島由紀夫をモデルとした『薔薇刑』では、生と死を二極に置き、生きている三島の肉体を永遠化し、変化しない死に変えた。
写真とは瞬間を永遠に変えることもできれば、死の永遠を生の瞬間に変換することもできる錬金術なのだ。ここに細江芸術の秘密がある。
朝日新聞 2006年5月14日
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