後書き
『[図説]台湾の妖怪伝説』(原書房)
台湾には各地域、民族ごとに発展した妖怪たちの伝承や歴史が存在する。古文書から都市伝説まで、著者がフィールドワークによって集めた多数の資料、図版を掲載した書籍『[図説]台湾の妖怪伝説』の訳者あとがきより、一部抜粋して公開します。
本書の序文にもあるとおり、近年の台湾では「妖怪」にかかわる各種文化が人気を博している。何敬堯氏による一連の著作のほかにも、書店の書架には「台湾妖怪」にかかわる多くの書籍が陳列されているのを見ることができる。一部を挙げれば、李家愷・林美容『魔神仔的人類学想像』(2014)、角斯角斯『台湾妖怪地誌』(2014)、台北地方異聞工作室『唯妖論:台湾神怪本事』(2016)、同『尋妖誌:島嶼妖怪文化之旅』(2018)、同『台湾妖怪学就醤』(2019)、同『台湾都市伝説百科』(2021)等がある。2017年には権威ある文学雑誌『聯合文学』が「妖怪繚亂」という特集を組んでいる。
本書の特色は、台湾妖怪を郷土とナショナリティーの歴史記憶のあらわれとしてとらえている点である。作者は、台湾各地の妖怪伝説の足跡を文献およびフィールドワークをとおして探査し、そのことを通じて地域の人々の生活と精神世界、そしてその歴史記憶に踏み込んでゆく。その探査対象は、古文献にあらわれる伝説から、現代社会の都市伝説にいたるまでを含んでいる。
台湾に実際に長く住んでいると、人々にとって民間信仰が生活のなかで生きた文化として脈々と受け継がれ、大きな力をもっていることを実感する機会は多いだろう。
たとえば私のある知り合いは、小さい頃、「陰陽眼」をもち、この世のものではないものが見えてしまったため、心配した両親が、「収驚(お祓い)」に連れて行き、その力を封じてもらった。いまでも護符を身につけて生活しているという。
またある若者は、学位論文をまず書いて卒業すべきか、その前に兵役に就くべきかという人生の選択で迷い、結局、母親が廟でポエを投げて神の意見を伺い、それにもとづいて進路を決定したのだった。さらにある友人は、夏休みになっても、旧暦7月の「鬼月」の期間に旅行に行くことは、家族から強い反対をうけるという。とくに海や川など、水辺に近づく行為はもってのほかだ。反対するときの顔の表情は真剣そのものだという。
台湾の人々の生きる精神世界、生活空間を理解するうえで、民間信仰や習俗習慣が非常に重要であることは疑問の余地がない。その意味で、本書『台湾の妖怪伝説』は、「生きた台湾」を深く理解するための絶好の入口になっているといえる。
[書き手]甄易言(訳者)
「生きた台湾」を理解するために
著者の何敬尭氏は1985年生まれで、国立台湾大学外国語文学系を卒業したのち国立清華大学台湾文学研究所の修士課程に学んだ。台湾妖怪をテーマとした著作を多く執筆し、本書のほかに「妖怪台湾」シリーズとして『妖怪台湾:三百年島嶼奇幻誌・妖鬼神遊巻』(2017)、『妖怪台湾:三百年山海述異記・怪譚奇夢巻』(2020)、『都市伝説事典:台湾百怪談』(2022)があり、ほかに『怪物們的迷宮』(2016)、『妖怪鳴歌録FORMOSA:唱遊曲』(2018)等の小説作品がある。その著作は金石堂十大影響力好書、国立台湾文学館好書、金石堂年度十大影響力好書、博客來OKAPI年度選書等に選定され、またゲームや歌劇にもアレンジされている。現代台湾を代表する若手作家のひとりといえる。本書の序文にもあるとおり、近年の台湾では「妖怪」にかかわる各種文化が人気を博している。何敬堯氏による一連の著作のほかにも、書店の書架には「台湾妖怪」にかかわる多くの書籍が陳列されているのを見ることができる。一部を挙げれば、李家愷・林美容『魔神仔的人類学想像』(2014)、角斯角斯『台湾妖怪地誌』(2014)、台北地方異聞工作室『唯妖論:台湾神怪本事』(2016)、同『尋妖誌:島嶼妖怪文化之旅』(2018)、同『台湾妖怪学就醤』(2019)、同『台湾都市伝説百科』(2021)等がある。2017年には権威ある文学雑誌『聯合文学』が「妖怪繚亂」という特集を組んでいる。
本書の特色は、台湾妖怪を郷土とナショナリティーの歴史記憶のあらわれとしてとらえている点である。作者は、台湾各地の妖怪伝説の足跡を文献およびフィールドワークをとおして探査し、そのことを通じて地域の人々の生活と精神世界、そしてその歴史記憶に踏み込んでゆく。その探査対象は、古文献にあらわれる伝説から、現代社会の都市伝説にいたるまでを含んでいる。
台湾に実際に長く住んでいると、人々にとって民間信仰が生活のなかで生きた文化として脈々と受け継がれ、大きな力をもっていることを実感する機会は多いだろう。
たとえば私のある知り合いは、小さい頃、「陰陽眼」をもち、この世のものではないものが見えてしまったため、心配した両親が、「収驚(お祓い)」に連れて行き、その力を封じてもらった。いまでも護符を身につけて生活しているという。
またある若者は、学位論文をまず書いて卒業すべきか、その前に兵役に就くべきかという人生の選択で迷い、結局、母親が廟でポエを投げて神の意見を伺い、それにもとづいて進路を決定したのだった。さらにある友人は、夏休みになっても、旧暦7月の「鬼月」の期間に旅行に行くことは、家族から強い反対をうけるという。とくに海や川など、水辺に近づく行為はもってのほかだ。反対するときの顔の表情は真剣そのものだという。
台湾の人々の生きる精神世界、生活空間を理解するうえで、民間信仰や習俗習慣が非常に重要であることは疑問の余地がない。その意味で、本書『台湾の妖怪伝説』は、「生きた台湾」を深く理解するための絶好の入口になっているといえる。
[書き手]甄易言(訳者)
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