書評
『戦略的資本主義: 日本型経済システムの本質』(日経BPマーケティング(日本経済新聞出版)
競争力高める経済体制とは
「戦略的資本主義」――「市場原理に沿いながら、同時に国の長期的な競争力の充実に傾注する経済的な体制」、これこそが戦後日本の経済発展の秘密を解く鍵であると、著者は主張する。論敵はきわめて明快だ。そう、官僚とりわけ通産省主導の「発展志向型国家」論を説く、チャルマーズ・ジョンソンに他ならない。そのために「産業金融」の分野にターゲットを定めた著者は、各産業界にそくしたミクロレベルの「官民関係」の実態を分析し、さらに個別企業のケーススタディに立ち入って議論を進める。その中でジョンソンの「発展志向型国家」モデルは、自動車部品産業など産業界の一部に適合的として相対化される。むしろ多くの場合、政府は決して一枚岩ではなくその結果優柔不断であり、民間部門――長期信用銀行系とりわけ興銀と、総合商社や企業グループが主導的役割を果たしたと、著者は結論づけている。
なかでも政府部門の関係者を「戦略家」と「規制者」とに分類し、いかに前者が多元的故に弱く、いかに後者が強力だったかの説明は説得的である。政府の戦略的対応は、コンピューター産業や石油精製産業に見られるように内発的というよりは外圧に促される場合が多いというのもわかる。しかも時として通産省ですら「規制者」の仲間入りをしてしまうのだ。
著者による政府内部の対立の実証と官僚主導否定の議論は、まことにみごとである。しかし、ではそれに代わる民間主導という時に、日本興業銀行や企業グループ内金融の役割が強調される割には、実証が不十分といわざるをえない。官と民とをどこで線引きできるかを含めて、なお検討を要する問題であろう。
ともあれ多くの日本語文献を渉猟し、多数の日本人関係者とのインタビューをこなし、比較政治学的分析を試みるというアメリカ人学者による日本研究の手法は、完全に定着した。
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