書評
『シャドウボクサー』(早川書房)
一九六〇年代後半に登場、『クレムリンの密書』と『シャドウボクサー』の二作を発表しただけで彗星のごとく去っていった作家が、ノエル・べーンである。ジョン・ル・カレやレン・デイトンのスパイ小説の二番煎じであると見なすムキが多かったけれども、全くちがう資質の作家であり、『クレムリンの密書』など山田風太郎の忍法帖を想わせるところがある。その奔放な物語性は本書にもよく表れている。一九四四年のヨーロッパ、ナチスの捕虜収容所から重要な囚人を次々に脱出させるスパイ「シャドウボクサー」の姿を歴史的事象を折り込んで描き出しているのだが、よく観察してみると、その神出鬼没ぶりは怪盗ルパンにそっくりなのだ。
「この作者の心の底には、ありきたりの読物作家とは縁遠いどすぐろい深淵がぽっかり口をあけているのではないかという気がする」(訳者あとがき)
【この書評が収録されている書籍】
「この作者の心の底には、ありきたりの読物作家とは縁遠いどすぐろい深淵がぽっかり口をあけているのではないかという気がする」(訳者あとがき)
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