書評
『僕らはソマリアギャングと夢を語る――「テロリストではない未来」をつくる挑戦』(英治出版)
紛争から再生する試み
二十五年以上にわたって、ひどく不幸な紛争に苛(さいな)まれてきている国がソマリアだが、そこはあまりにも危険であるため世界中の救援組織から事実上見放されている。この本は、少しでも不幸の軽減と平和に貢献できないか、という信じられないほど純粋な正義感を持った大学生が、日本とソマリア双方の若者からなる「ユース団体」を設立して、運営していく様子を当事者の立場から描き出したものだ(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2016年)。彼らは数十万人のソマリア人避難民が暮らす隣国ケニアの首都近郊イスリー地区を活動の場として選ぶ。そこでは、長年にわたる避難民生活の中で教育を受けられず、ケニア人から警戒・迫害されて育った多数の若者が、人生の目的を見つけられずにギャング化している。それがソマリア人全体の評価を落とすことになり、次の世代にも受け継がれていき、結果として彼ら自身が武装組織に利用されて紛争を更新していくという悪循環ができあがっている。そこで著者らは同年代の若者であるということを最大の資産として利用して、ギャングの若者たちに接近し、彼ら自身をコミュニティ再生プログラムの主体に転じさせる活動を構築していく。
面白いのは、フェイスブックやスカイプなどの新しいメディアとテクノロジーを当たり前のものとして育った世代ならではの組織運営法で、それによって彼らは距離や時差や文化的な隔たりを軽やかに乗り越えていく。一方で、活動が評価され、外部から活動資金を獲得できたことによって、かえって組織が崩壊の危機に瀕(ひん)するという普遍的な事件もおこる。
世界的な紛争に関しては、個人にはどうしようもないと諦めがちだが、小さなところから始めて積み重ねていけばたしかに少しずつ変えられる、改善できる、という強力なメッセージをこの本は発している。わずか五年でどれほどのことができるのか、自分の五年間を振りかえって、身の引き締まる思いがする一冊だった。
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