書評
『三つの教会と三人のプリミティフ派画家』(国書刊行会)
『さかしま』で著名なユイスマンスの遺作となった美術論集。ノートル=ダムほか二つの教会と、グリューネヴァルトほかフランクフルトの謎の画家二人を論じている。原著からほぼ百年後の初訳だが、表層を凝視し、その奥から信仰と人間の格闘のドラマをえぐりだすまなざしの強さは、現在でも感嘆を呼びさます。
題材は多様だが、論者の嗜好(しこう)は明白である。ノートル=ダム寺院の象徴表現に錬金術師の暗い欲望を検証し、フランクフルトの典雅な女性像に悪魔の誘惑の最も淫猥(いんわい)な表現を見てとるのだ。この作家は、天国よりも地獄を見たがる精神の持ち主だった。それだけに、至純の天国への憧(あこが)れもいっそう激烈だった。
圧巻は、コルマールの美術館のグリューネヴァルトを論じた文章である。壊疽(えそ)に侵された死体のようなキリストと輝かしく復活するキリストを同時に描いたこの画家は、ユイスマンスの極端から極端へと走る二面性をよく体現していた。
題材は多様だが、論者の嗜好(しこう)は明白である。ノートル=ダム寺院の象徴表現に錬金術師の暗い欲望を検証し、フランクフルトの典雅な女性像に悪魔の誘惑の最も淫猥(いんわい)な表現を見てとるのだ。この作家は、天国よりも地獄を見たがる精神の持ち主だった。それだけに、至純の天国への憧(あこが)れもいっそう激烈だった。
圧巻は、コルマールの美術館のグリューネヴァルトを論じた文章である。壊疽(えそ)に侵された死体のようなキリストと輝かしく復活するキリストを同時に描いたこの画家は、ユイスマンスの極端から極端へと走る二面性をよく体現していた。
朝日新聞 2005年10月16日
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