書評

『となりに脱走兵がいた時代: ジャテック、ある市民運動の記録』(思想の科学社)

  • 2025/08/13
となりに脱走兵がいた時代: ジャテック、ある市民運動の記録 / 関谷 滋,坂元 良江
となりに脱走兵がいた時代: ジャテック、ある市民運動の記録
  • 著者:関谷 滋,坂元 良江
  • 出版社:思想の科学社
  • 装丁:単行本(658ページ)
  • 発売日:1998-05-01
  • ISBN-10:4783600929
  • ISBN-13:978-4783600923
内容紹介:
ベトナム戦争から脱走した米兵たち。死にたくない、殺したくないと基地を後にした彼らを、家々に匿い、海外への脱出ルートを模索し、長い潜伏生活をともにした無数の人々がいた。反戦脱走米兵… もっと読む
ベトナム戦争から脱走した米兵たち。死にたくない、殺したくないと基地を後にした彼らを、家々に匿い、海外への脱出ルートを模索し、長い潜伏生活をともにした無数の人々がいた。反戦脱走米兵援助日本技術委員会の軌跡。
目次
プロローグ 新宿の路上で上まれたジャテックの芽
1 イントレピッドの四人とジャテックの誕生
2 ジャテックの再編
3 方針転換と基地工作
4 脱走兵 それぞれの横顔
5 その後の彼ら
6 30年後の覚書
7 おわりに
8 資料

封印解かれた体験記、活劇のような面白さ

一九六七年秋、劇団を主宰する一人の東大生が、ヒッピーのたまり場新宿風月堂で二人の米兵に泊めてくれと頼まれ、考えた末、ベ平連(「ベトナムに平和を!」市民連合)に連絡した。ベ平連は彼らを本郷のマンションにかくまったあと、別ルートで援助を求めてきた二人と共に、ソ連経由でスウェーデンに脱出させた。すなわち航空母艦「イントレピッド」の四人である。

これを皮切りに、「もうベトナムで人殺しをするのは嫌だ」と米軍を脱走した兵士をかくまう専門組織「ジャテック」ができた。本書は当時かかわった人びとが、「自分の見聞をはなし、あるいは自分自身で書いた」三十年ぶりの記録である。

徹夜して一気に読んだ。活劇のように面白い。アポロが月に届き、安田講堂が落ち、巷(ちまた)には「フランシーヌの場合」が流れていた時代の、中学生であった評者には乗りそこねた時代の、活動と魂の記録である。

二度目は研究的に読んでみた。いかにかくまったか。スクリーニング(対面調査)―泊める場所の確保、輸送―次に泊める場所の確保―移動―カウンセリング、そのくり返し。いかに多くの人がひそやかに協力したか、運転手、炊き出し、マンションの提供、資金カンパ、通訳、機関紙編集……。

「特別な人しかかかわることができない」運動であるよりも「だれでも交代できる」オープンな活動をめざした。とはいえ、スパイが侵入すれば、かくまう場所や協力者の秘匿は不可欠だ。信頼と警戒、このせめぎあいに誠実に対処したことで、この運動は陰惨な結末から救われたように思える。

脱走兵には「いいヤツもしょうがないヤツも」いたらしい。金は一日で使い果たすわ、ニワトリを包丁もって追いかけるわ、麻薬や女は欲しがるわ、自分の中産階級的な英語と米兵のスラングの落差を感じた人もいた。そう、彼らは反戦の英雄ではなく「具体的に食欲も性欲もある」ふつうのアメリカ人だった。

いま思い起こす。「その体験によって、私は、根本的なところでなにがしか自由になれた」「人生はほんとうに豊かなものになった」。いちばん若い担い手が五十代に入りかけ、この活動はようやく徐々に封印を解かれ、未来へつながるものとなった。
となりに脱走兵がいた時代: ジャテック、ある市民運動の記録 / 関谷 滋,坂元 良江
となりに脱走兵がいた時代: ジャテック、ある市民運動の記録
  • 著者:関谷 滋,坂元 良江
  • 出版社:思想の科学社
  • 装丁:単行本(658ページ)
  • 発売日:1998-05-01
  • ISBN-10:4783600929
  • ISBN-13:978-4783600923
内容紹介:
ベトナム戦争から脱走した米兵たち。死にたくない、殺したくないと基地を後にした彼らを、家々に匿い、海外への脱出ルートを模索し、長い潜伏生活をともにした無数の人々がいた。反戦脱走米兵… もっと読む
ベトナム戦争から脱走した米兵たち。死にたくない、殺したくないと基地を後にした彼らを、家々に匿い、海外への脱出ルートを模索し、長い潜伏生活をともにした無数の人々がいた。反戦脱走米兵援助日本技術委員会の軌跡。
目次
プロローグ 新宿の路上で上まれたジャテックの芽
1 イントレピッドの四人とジャテックの誕生
2 ジャテックの再編
3 方針転換と基地工作
4 脱走兵 それぞれの横顔
5 その後の彼ら
6 30年後の覚書
7 おわりに
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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 1998年7月5日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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