読書日記
内澤旬子『漂うままに島に着き』(朝日新聞出版)、トーベ・ヤンソン『島暮らしの記録』(筑摩書房)、島尾ミホ『海辺の生と死』(中央公論新社)
人生を海、島とともに
「人が多すぎる東京から脱出したい」と、中年になってとみに感じるものの移住するガッツはなく、「ま、このまま住み続けるのだろう」と思っている私。しかし<1>内澤旬子『漂うままに島に着き』(朝日新聞出版・1,620円)を読んで、嫉妬のような感情が湧き上がってきました。四十代で独り身の著者。東京に嫌気がさして、エイヤとばかりに小豆島に移住した顛末(てんまつ)が本書には記されます。様々な困難があるものの、著者は逃げずに飄々(ひょうひょう)と対処。とうとう、海を眺めつつヤギと暮らす環境を手中にします。
未来への不安は、もちろんある。しかし自らの欲求に従い、石橋を叩(たた)かずに足を踏み出すその軽やかさに私は嫉妬したのであり、本書を読んでいるつかの間、自分も東京を脱出したかのような気分になることができました。
「ムーミン」シリーズの著者であるトーベ・ヤンソンもまた、島を愛した女性であり、毎夏をフィンランドの島の小屋で過ごしていました。<2>『島暮らしの記録』(冨原眞弓訳、筑摩書房・2,052円)にはその一端が描かれており、挿画は島暮らしを共にするパートナーによるもの。
しかしその暮らしは、ハードです。夏とはいえフィンランドの海は、相当寒そう。小屋があるのは島というより小さな岩礁で、木が一本しか生えていない所なのです。
しかし彼女達は、自転車のようにボートを操り、泳ぎ、釣り(というより漁)をします。北欧の人々にとって海と島は、切っても切れない関係にあるのです。
そんな彼女がある日感じたのは、「海が怖くなった」こと。そのことによって自らの年齢を実感する彼女の人生はまさに、海と島と共にあったのでしょう。
島尾ミホは、奄美大島のすぐ隣にある、加計呂麻(かけろま)島の旧家に生まれました。戦時中、島に駐屯していた特攻隊長の島尾敏雄と出会い、敗戦後に結婚したのです。
ミホの子供時代、加計呂麻島を訪れた人々の思い出が<3>『海辺の生と死』(中公文庫・700円)に綴(つづ)られます。沖縄芝居の役者、踊り子、そして赤穂浪士を語る浪曲師。様々な地の人がそこには流れついたのであり、島尾隊長もまた、その一人。
島尾隊長がいよいよ特攻出撃となった夜の、ミホのおこないはまさに、「この一晩が、一生」。しかし特攻は行われずに戦争は終わり、二人は『死の棘(とげ)』へと向かっていくのです。
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