書評

『近代出版研究 第4号』(皓星社)

  • 2025/09/13
近代出版研究 第4号 / 近代出版研究所
近代出版研究 第4号
  • 著者:近代出版研究所
  • 出版社:皓星社
  • 装丁:単行本(416ページ)
  • 発売日:2025-04-10
  • ISBN-10:4774408581
  • ISBN-13:978-4774408583
内容紹介:
特大号となった第4号の特集は「書物百般・紀田順一郎の世界」。今年卒寿(90歳)を迎える評論家・作家の紀田順一郎を大特集。今なお読み継がれる「古本屋探偵」小説の誕生秘話に迫る1万字イ… もっと読む
特大号となった第4号の特集は「書物百般・紀田順一郎の世界」。

今年卒寿(90歳)を迎える評論家・作家の紀田順一郎を大特集。
今なお読み継がれる「古本屋探偵」小説の誕生秘話に迫る1万字インタビューの他、荒俣宏が六十年余の師弟関係を振り返った書き下ろし「「博捜一代」随聞記」(3万5000字!)をはじめ、長山靖生、大澤聡、南陀楼綾繁、東雅夫、鈴木宏宗らが明治物、教養・読書論、古書、アンソロジー、図書館など紀田先生の様々な側面を論じます。
出久根達郎、山根一眞、三上延、読書猿ら60人余が回答した約50ページの大アンケートも。200ページに及ぶ大特集です!

巻頭は片山杜秀ロングインタビュー「古本王子の快進撃」(4万8000字!)。
音楽評論家、政治思想史家として八面六臂の活躍をしながら、今なお古本市で“箱買い”する大の古書好きである片山さんに自身と本との関わりたっぷり語ってもらいました。

「小さい問題の登録」を謳う本誌は今回も、戦前の夜の歓楽街ガイド誌、春画と日露戦争、駅売十銭パンフレット、逓信省検閲などなど……
これまでほとんど論じられなかった近代出版の様々なテーマを取り上げます。

レコード/CDなどに付属する解説「ライナーノーツ」の歴史、日本一の雑誌専門図書館(大宅壮一文庫)で約1万3000タイトルを確認した専門図書館司書による「雑誌の巻号表記」についての報告も。

稲岡勝(明治出版史)、安野一之(検閲研究)、毛利眞人(日本洋楽史)といった斯界の第一人者から、神保町のオタ、松﨑貴之、藤元直樹といった在野研究者まで、ユニークな執筆陣が揃いました! 前号から約100頁増の特大号になります!


【目次】
古本王子の快進撃 片山杜秀ロングインタビュー 片山杜秀・小林昌樹・森洋介・河原努・鈴木宏宗・兵務局・晴山生菜

特集 書物百般・紀田順一郎の世界

古本屋探偵登場まで――夾竹桃の花咲けば 紀田順一郎

「博捜一代」随聞記 荒俣宏
過去から来た可能性――紀田順一郎氏の幕末明治研究 長山靖生

没落しゆく教養主義の実況中継者――一九七〇年代の紀田順一郎 大澤聡

神保町通いが生んだ古本ミステリ 南陀楼綾繁
稀代のアンソロジストとして 東雅夫
紀田順一郎と図書館、その利用と理想と 鈴木宏宗
ゲスナー賞と紀田順一郎 関直行
大アンケート「紀田順一郎と私たち」

【アンケート回答】
河内紀、稲岡勝、出久根達郎、高橋輝次、川口秀彦(古書りぶる・りべろ)、山根一眞、荒俣宏、戸川安宣、田村俊作、かわじもとたか、戸家誠、平山周吉、藤原栄志郎(とんぼ書林)、横山茂雄、樽見博、小西昌幸、山本善行、紅野謙介、岡崎武志、東雅夫、芦辺拓、永江朗、神保町のオタ、大月隆寛、会津信吾、境田稔信、田中栞、河田隆史、佐藤卓己、長山靖生、北原尚彦、井上真琴、仲俣暁生、藤元直樹、牧原勝志、郡淳一郎、小林昌樹、南陀楼綾繁、小山力也、日下三蔵、菊地暁、荻原魚雷、鈴木宏宗、安野一之、平山亜佐子、三上延、山本貴光、扉野良人、森洋介、門賀美央子、日比嘉高、吉川浩満、山中剛史、磯部敦、飯倉義之、木村浩之(松籟社)、安形麻理、志村真幸、中根ユウサク、尾崎名津子、山中智省、安井海洋、宮本和歌子、読書猿

「古本の家庭教師」に寄せて──紀田順一郎アンケートと、ささやかな自分史と 大尾侑子

紀田順一郎世界ワールドの探険法――百科全書派の百学連環めぐり 小林昌樹

紀田順一郎略年譜
紀田順一郎著作一覧

夜の蔵書家が狙う発禁雑誌――大正・昭和戦前期における「夜の歓楽街ガイド誌」 神保町のオタ
春画と日露戦争 松﨑貴之
薄い本の時代――駅売十銭パンフレット出版管見一九三四~一九四五 藤元直樹
巻号表記から見える雑誌――大宅壮一文庫の現場から 下村芳央
逓信省検閲 点描――もう一つの出版検閲(二) 安野一之
ライナーノーツの原初を探る――レコードに付属する小さな出版 毛利眞人
隅に置けない金やん、漱石と『情史抄』――明治書生が読んだ内藤伝右衛門蔵版書 稲岡勝
書評『新書へのとびら : 講談社現代新書創刊六〇周年』 鈴木宏宗

紀田順一郎と荒俣宏

×月×日

東京堂の新刊本コーナーは、その長方形のスペースをぐるりと一巡すると読むべき本、買うべき本がすぐに見つかるという、本読みにとってはまことにありがたいスポットなので、月に最低二度はここに足を運ぶことにしているが、さらにありがたいのは一般書店には流通していない本や雑誌が配架されていることだ。

その一例が、図書館司書の経験を生かし、『調べる技術』のベストセラーを放った小林昌樹が主宰している近代書誌学研究誌『近代出版研究』(近代出版研究所 三二〇〇円+税)。

最新号(二〇二五年、第四号)の特集は「書物百般・紀田順一郎の世界」だ。

紀田順一郎の特別寄稿を別にすると圧倒的なのが弟子の荒俣宏の寄稿「『博捜一代』随聞記」三万五千字だ。

わたしがはじめて紀田さんを知ったのは、今では記憶する人も少ないハードボイルド探偵雑誌『マンハント』の誌上だった。

『マンハント』とは懐かしい。ライバル誌の『ヒッチコック・マガジン』に比べると表紙にモダンな女性をあしらった、いささか軟派の雑誌だったと記憶する。

この『マンハント』に紀田順一郎は「よろず人生案内」という珍職業のルポを連載していて、これが荒俣少年をいたく感激させたらしい。

では、紀田・荒俣の実際の出会いはいつかといえば、これは思わぬところから実現したようだ。

永井荷風の門弟でありながら荷風に破門されて千葉で隠棲生活を送っていた幻想文学の翻訳者・平井呈一に中学生ながら弟子入り希望の手紙を書いた荒俣に平井が次のような電話をかけてきたのである。

「今度、非常に情熱ある青年が怪奇文学の雑誌を出すといってきた。とてもよく勉強している人だから、きみもその人から教えを受けなさい」。

平井は「横浜にいる佐藤俊というお方だよ」というので、荒俣が手紙を書くと、返事が届いた。封筒の裏を見て驚いた。「そこには佐藤俊(紀田順一郎)と、二つの名があったからだ」。

驚きはさらに続いた。一九六四年、高校の図書委員をしていた荒俣は図書館に入庫した『現代人の読書』の著者が紀田順一郎と記されていることに驚愕した。「これは、あの紀田さんと同一人物だろうか、と何度も目をこすってしまった」。疑念は書籍カードの書き方のサンプルとしてシェリダン・レ・ファニュの本が取り上げられているのを発見したことできれいに晴れた。

おそらくこの瞬間だったのだろう、わたしが紀田先生を読書の師匠と心に決めたのは。

こうした麗しい師弟関係についてはある程度知っていたが、紀田・荒俣コンビがITS情報革命に深くかかわっていたことは知らなかった。

「『博捜一代』随聞記」の後半は、二人が日本語をコンピュータに適応した言語にするまでの戦いが記されている。日本語は途方もない悪魔だったのである。

こんどの悪魔、『日本語』は、その規模といい影響力といい、幻想怪奇文学とは比較にならない化け物だった。その中で紀田さんは、この悪魔を手なずける闘いの最前線に加わったといえる。

これだけでも随聞記として抜群におもしろい読み物であるが、『近代出版研究』には特集「書物百般・紀田順一郎の世界」のほかに、サブ特集として「古本王子の快進撃 片山杜秀ロングインタビュー」が巻頭に配されている。これもまた特筆に値いするおもしろさだ。

とりわけ、古本は病原菌の巣だと信じる祖母の影響で古本屋には足を踏み入れなかった片山杜秀が、小学校高学年で戦国時代マニアになって、古本屋通いを始めたきっかけというのがすごい。

戦前の早稲田大学出版部の『通俗日本全史』とか――ああいうのが読みたくなっちゃって、それで小六、中一くらいから古本屋にそういうものを買いに行くようになりました。

中でも驚くべきは、小六のときに小宮山書店で二〇万円で売っていた『続群書類従』を欲しいといったところ、知り合いの上場企業の重役がそれを買ってくれたというエピソードである。まさに古本王子!

日本で最も手薄な分野と思われている書誌学研究に黎明が見えてきそうな雑誌である。
近代出版研究 第4号 / 近代出版研究所
近代出版研究 第4号
  • 著者:近代出版研究所
  • 出版社:皓星社
  • 装丁:単行本(416ページ)
  • 発売日:2025-04-10
  • ISBN-10:4774408581
  • ISBN-13:978-4774408583
内容紹介:
特大号となった第4号の特集は「書物百般・紀田順一郎の世界」。今年卒寿(90歳)を迎える評論家・作家の紀田順一郎を大特集。今なお読み継がれる「古本屋探偵」小説の誕生秘話に迫る1万字イ… もっと読む
特大号となった第4号の特集は「書物百般・紀田順一郎の世界」。

今年卒寿(90歳)を迎える評論家・作家の紀田順一郎を大特集。
今なお読み継がれる「古本屋探偵」小説の誕生秘話に迫る1万字インタビューの他、荒俣宏が六十年余の師弟関係を振り返った書き下ろし「「博捜一代」随聞記」(3万5000字!)をはじめ、長山靖生、大澤聡、南陀楼綾繁、東雅夫、鈴木宏宗らが明治物、教養・読書論、古書、アンソロジー、図書館など紀田先生の様々な側面を論じます。
出久根達郎、山根一眞、三上延、読書猿ら60人余が回答した約50ページの大アンケートも。200ページに及ぶ大特集です!

巻頭は片山杜秀ロングインタビュー「古本王子の快進撃」(4万8000字!)。
音楽評論家、政治思想史家として八面六臂の活躍をしながら、今なお古本市で“箱買い”する大の古書好きである片山さんに自身と本との関わりたっぷり語ってもらいました。

「小さい問題の登録」を謳う本誌は今回も、戦前の夜の歓楽街ガイド誌、春画と日露戦争、駅売十銭パンフレット、逓信省検閲などなど……
これまでほとんど論じられなかった近代出版の様々なテーマを取り上げます。

レコード/CDなどに付属する解説「ライナーノーツ」の歴史、日本一の雑誌専門図書館(大宅壮一文庫)で約1万3000タイトルを確認した専門図書館司書による「雑誌の巻号表記」についての報告も。

稲岡勝(明治出版史)、安野一之(検閲研究)、毛利眞人(日本洋楽史)といった斯界の第一人者から、神保町のオタ、松﨑貴之、藤元直樹といった在野研究者まで、ユニークな執筆陣が揃いました! 前号から約100頁増の特大号になります!


【目次】
古本王子の快進撃 片山杜秀ロングインタビュー 片山杜秀・小林昌樹・森洋介・河原努・鈴木宏宗・兵務局・晴山生菜

特集 書物百般・紀田順一郎の世界

古本屋探偵登場まで――夾竹桃の花咲けば 紀田順一郎

「博捜一代」随聞記 荒俣宏
過去から来た可能性――紀田順一郎氏の幕末明治研究 長山靖生

没落しゆく教養主義の実況中継者――一九七〇年代の紀田順一郎 大澤聡

神保町通いが生んだ古本ミステリ 南陀楼綾繁
稀代のアンソロジストとして 東雅夫
紀田順一郎と図書館、その利用と理想と 鈴木宏宗
ゲスナー賞と紀田順一郎 関直行
大アンケート「紀田順一郎と私たち」

【アンケート回答】
河内紀、稲岡勝、出久根達郎、高橋輝次、川口秀彦(古書りぶる・りべろ)、山根一眞、荒俣宏、戸川安宣、田村俊作、かわじもとたか、戸家誠、平山周吉、藤原栄志郎(とんぼ書林)、横山茂雄、樽見博、小西昌幸、山本善行、紅野謙介、岡崎武志、東雅夫、芦辺拓、永江朗、神保町のオタ、大月隆寛、会津信吾、境田稔信、田中栞、河田隆史、佐藤卓己、長山靖生、北原尚彦、井上真琴、仲俣暁生、藤元直樹、牧原勝志、郡淳一郎、小林昌樹、南陀楼綾繁、小山力也、日下三蔵、菊地暁、荻原魚雷、鈴木宏宗、安野一之、平山亜佐子、三上延、山本貴光、扉野良人、森洋介、門賀美央子、日比嘉高、吉川浩満、山中剛史、磯部敦、飯倉義之、木村浩之(松籟社)、安形麻理、志村真幸、中根ユウサク、尾崎名津子、山中智省、安井海洋、宮本和歌子、読書猿

「古本の家庭教師」に寄せて──紀田順一郎アンケートと、ささやかな自分史と 大尾侑子

紀田順一郎世界ワールドの探険法――百科全書派の百学連環めぐり 小林昌樹

紀田順一郎略年譜
紀田順一郎著作一覧

夜の蔵書家が狙う発禁雑誌――大正・昭和戦前期における「夜の歓楽街ガイド誌」 神保町のオタ
春画と日露戦争 松﨑貴之
薄い本の時代――駅売十銭パンフレット出版管見一九三四~一九四五 藤元直樹
巻号表記から見える雑誌――大宅壮一文庫の現場から 下村芳央
逓信省検閲 点描――もう一つの出版検閲(二) 安野一之
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