読書日記
世界が分断されているいまこそ読むべき本―ルネ・デカルト『方法序説』、ブレーズ・パスカル『パンセ』など
私はフランス文学者を肩書にしているので、最もフランス的特徴のよく出た本を選んでみた。フランス的特徴とは何か? フランス思想やフランス文学・芸術を貫く特徴を一言で要約すれば、「普遍的たらんとする意思」ということになるだろう。人類は、人種、民族、言語、体制など様々なかたちに分かれているが、それらの個別性は思想や文学が究極の目的とすべきことではないと、フランス人は考えるのだ。むしろ、ホモ・サピエンスとしての人類に普遍的なものは何かと追究することこそが思想、文学、芸術の本質なのだ。フランス的特徴を最もクリアに表したのが、ルイ14世の時代のモラリストと呼ばれる文学者たちだ。デカルト、パスカル、ラ・ロシュフコー、ラ・フォンテーヌらは、フランス人についてではなく、あくまで人間一般について考えを巡らそうとした。その結果、どれほど時間と空間を隔てていようと、いかなるときにどんな場所で読んでも、「これは私のことだ」と深く納得できる思想書や文学書、芸術作品が出来上がったのである。現在、コロナ危機によって世界が分断され、多くの人々が個別性にしか生きられないと感じている。この10冊は、こうした瞬間にこそ読むべき普遍性志向の本である。
世界が分断されているいまこそ読むべき本
ルネ・デカルト『方法序説』
世の中はなぜうまくいっていないのか? それは、人が考えるための能力(理性)を与えられながら「正しく考える方法」を教えられていないからだ。こう考えたデカルトが書き上げた「正しく考えるための方法」のイントロダクション。ブレーズ・パスカル『パンセ』
人間はどんな仕事にも向いている。向いていないのは、なんの気晴らしもなく部屋にじっと閉じこもっていることだけだ──新型コロナウイルス感染拡大により、人類全体が蟄居を強制されているいまこそ読むべき本。フランソワ・ド・ラ・ロシュフコー『箴言集』
人間の最も根源的な欲動は「褒めてくれ!」という自己愛にほかならない。それは、性欲よりも食欲よりも強く、時には無私無欲を装うこともある。私の「ドーダ理論(ドーダ、すごいだろう!)」の基礎となった箴言集。エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ『自発的隷従論』
若くして逝ったモンテーニュの親友の遺作。人はなぜ暴君に自発的に隷従するのかという根源的問いを発し、それは人間が長いあいだに隷従する習慣を身につけ、隷従を自然状態だと感じるようになったからだとする。これまた、いま読まれるべき本。エティエンヌ・ボノ・ド・コンディヤック『論理学 考える技術の初歩』
デカルトの『方法序説』に異を唱えるコンディヤックによる独自の『方法序説』。意識的にできることは無意識的にできていることにほかならないから、無意識的にできていることを分析して意識化する以外にはないというのがその主張。ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ『寓話』
「すべての道はローマに通ずる」など格言のもと。イソップ寓話をもとにフランス的な毒とエスプリを盛り込んだ寓話集。アレクシ・ド・トクヴィル『アメリカのデモクラシー』
利己心の塊アメリカ人社会がなぜ自己崩壊せずに機能するのか、謎を解き明かす名著。正しく考えられた自己利益の追求が原理だ。マルセル・モース『贈与論』
物々交換ではなく、一方的に先に与える「贈与」こそが交換様式の始まりであるとした伝説的な人類学の古典。マルク・ブロック『比較史の方法』
歴史を科学に近づけるには条件のよく似た2つの歴史を比較する「実験の史学」しかないとするアナール史学の創始者の講演。ロラン・バルト『ロラン・バルト モード論集』
モードは思想であり、思想であればその言語は解読可能だとするバルトの「モードの体系」のアンソロジー。シャネル論が秀逸。ALL REVIEWSをフォローする








































