コラム
山口 二郎『政治改革』(岩波新書)、細川 護煕 編『日本新党・責任ある変革』(東洋経済新報社)、小沢 一郎『日本改造計画』(講談社)、他
議員の任期制限や地方主権の確立…
解散そして総選挙の真只中である。“改革”ということばだけが、政治を変える呪文(じゅもん)のようにすべての人の口の端にのぼり、まことに喧(やかま)しい。だが“改革”とはいったい何なのか。何をどのように変えることなのか。現実の選挙戦の中で、もっとも真剣に議論されるべき“改革”の具体的内容が、まったく伝わってこない。聞こえてくるのは、権力闘争的側面や合従連衡のあり方、相互批難のパフォーマンスといったことばかり。実はあたかもこうした政界再編成への動きを見通していたかのように、ここへ来て“政治改革”をテーマにした書物がたて続けに出版された。日々移ろうマスコミ報道を離れて、ここはじっくり“改革”の中身を検討してみようではないか。ここでは五冊を爼上(そじよう)にのせ、まずはその特色からみていこう。
山口二郎著「政治改革」(岩波新書)は、情熱をこめて舌鋒(ぜっぽう)鋭く政治腐敗の現状を批判し、議会政治改革の基本原理を吟味する若き政治学者の具体的提言である。民間政治臨調著「日本変革のヴィジョン」(講談社)は、政界・財界・学界・労働界から横断的に意欲ある人材を糾合し、中央から地方に及ぶ政治制度の全面的改革を、提言と説明の形にわけて分かりやすく説く。
細川護煕編「日本新党・責任ある変革」(東洋経済新報社)は、キャッチフレーズとネーミングに新味を出しつつ、地方政治から国際政治に至る幅広い改革の方向を示す。小沢一郎著「日本改造計画」(講談社)は、個性ある語り口を生かし確固たる歴史観と政治観をベースに、二十一世紀の日本を見すえた大胆な改革論を提示する。
佐々木毅監修・CP研究会編「日本政治の再生に賭ける」(東洋経済新報社)は、超党派の一年生国会議員有志による政治改革をめざす勉強会の記録であり、座談会と各人のアピールがそのまま改革すべき政治の現状を明らかにしている。
次に個々の論点にスポットをあてると、ここにあげた五冊は、いずれも中選挙区制の廃止と政権交代の実現をめざす点において一致している。さらに政治資金制度の改革と公的助成制度の導入についても、大筋は同じである。他方党と内閣のあり方について、山口、臨調、小沢の三冊がこぞってイギリスモデルを参考にしているのは注目に値する。その結果、とりわけ山口本と小沢本は明確に族議員の解体と、百五十人にのぼる与党議員の内閣への参加を提案する。これによって内閣の政治責任をはっきりとさせるわけである。
もっとも首相のリーダーシップをめぐる問題では、臨調本と小沢本とで趣を異にする。臨調本では首相の下に内閣予算局を置き他の首相補佐官と共に組織的調整を行う形で、首相個人のリーダーシップには重きを置かない。これに対して小沢本では、これまでの経験を背景に組織は拡大せず、機動的な補佐官制度に支えられた首相のリーダーシップの確立をめざす。
目を中央から地方に転じよう。ここでは地方分権を共通項に、ユニークな提言が目白押しだ。細川本では知事としての体験から、パイロット自治体を分権化の梃子(てこ)として、最も徹底した「地方主権確立基本法」の制定に至る。一方小沢本は全国を三百の「市」とする基礎自治体構想を鮮明にする。他方臨調本は地方議会の制度及び選挙の改革をうたう。ここでの地方首長の多選禁止という提案は、山口本の国会議員の任期制限と結びつく時、確かに中央と地方を有機的に移動する政治家の新たなキャリアパターンとなりうるであろう。
狭義の政治改革をこえて、個人生活のレベルから国際政治のレベルまで最も包括的に“改革”を論じているのは、細川本と小沢本だ。「生活者主権の確立」を基本に、「護憲的改憲」によって新たな平和主義を世界に提示するというのが細川本のモチーフである。これに対して小沢本は、「五つの自由」の実現により「個人を大切にする社会」を構築すると同時に、「内政と外交の一体化」による明確な国家戦略をもった「普通の国」になることを奨める。
ここまで検討してきて紙数がつきた。この五冊、政治改革論議を深める意味でも相対化する意味でも実際に自分自身の目で確かめてほしい。CP研究会本の率直さや細川本のさわやかさは、“改革”へのとっかかりとして意味をもつ。それから臨調本の目くばりのよさには舌をまく。だが圧巻は何と言っても、本来は対照的な立場にある筈の山口本と小沢本との“改革”の意欲にみせる積極性だ。権力から最も遠い山口と、権力中枢にいた小沢の“改革”へのまなざしが不思議なほど一致するのである。かくて具体的なレベルでアマとプロとの“改革”論議がかみ合うようになった時、二十一世紀の日本は、もうそこまで来ているに違いない。
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