書評
『つんつくせんせいとつんくまえんのくま』(フレーベル館)
つんつくえんとつくしまえん
昼寝する吾子の横顔いっぽんの植物の蔓(つる)のごとくたどれり「おひるねのとも」に適している絵本というのがある。読んでもらっているうちに、すうっと眠りに誘われるためには、あまりハラハラどきどきのお話でないほうがいい。適度におもしろく、適度にのんびりしていて、適度にややこしい……。息子にとっては『つんつくせんせいとつんくまえんのくま』が、まさにそういう絵本だ。
山の家に行くことになったつんつくえんのみんなと、山の家に行くことになったつんくまえんのこぐまたち。お互いの山の家を取り違えたようなのだけれど、なんだか丸くおさまってしまう。
「つんつくえんのみんなが……つんくまえんのつんくませんせいと……」
と、つんつくつんくま読んでいるうちに、息子の目は、だんだんとろーりとしてくる。ちょうどお昼寝の場面が、途中にあるのもいい。
ところで、この「つんつくえん」からの連想なのか、あるときから息子は「つくしまえん」というナゾの園名を口にするようになった。
大好きなカリンジュースを飲みながら「かんろ、かんろ」などとつぶやくので、「あら、そんなむずかしい言葉、どこで覚えたの?」と聞くと、「つくしまえんだよ」。
玄関の靴(くつ)を熱心にそろえているので「えらいねえ、ばあばに教えてもらったの?」と聞くと、これまた「ううん、つくしまえん」。
おみせやさんごっこをしていて、昨日までは「いらっさいませ~」だけだったのに、急に口上を述べるようになったときも、近所のスーパーではなく「つくしまえん」で聞いたと言う。
「いらっさいませ、いらっさいませ。おいしいおべんとうです、いかがでしょうか。いろいろくふうしてみました。これはコンニャクのおともだちのメンニャクですよ~」
本を読むのもテレビを見るのも買い物をするのも、ほとんど一緒にしている。子どもが新しい言葉に出会う場面には、たいてい立ち会っているつもりなのだが、はて、どういうことだろう? 週に一度通っているプリスクールかとも思ったが、どうもそうでもないらしい。
「ねえねえ、つくしまえんって、プリスクールのこと?」
「ちがうよ」
「どこにあるの?」
「ずーっと、ずーっと、とおいところ」
「おかあさんの、しってるところかな?」
「ううん、おかあさんは、いったことないの」
きっぱり答えるところを見ると、かなりはっきりしたイメージがあるようだ。
秋には三歳になる息子。いつのまにか、いろんな言葉を覚え、いろんなことがわかるようになっている。私の目には見えないところで成長しているなあと感じることも、しばしばだ。「つくしまえん」は本当にどこかにあるのかもしれない。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2006年7月26日
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