書評
『ハイテク考古学』(丸善)
時代の先端をいくハイテク技術の研究と、古代にロマンを抱く考古学と――両者は一見すると、未来と過去という全く逆の方向を見つめている学問のように思われる。
「考古学の人達からみれば我々はインベーダーです。」と言う著者は、人工衛星による地球環境観測などを仕事の中心とする、まさにハイテク畑の人。それが、ひょんなことから考古学の世界へ参加することになった。
きっかけは、鎌倉の大仏さまの「お顔色」。修復の後、何だか以前と変わっているように見えると、心配する住職の話から、科学的に調べてみようということになった。「お顔色」の変化というのは、緑青が原因で、しかも腐食の状態を調べていくうちに、場所によってブロンズの成分がずいぶん違うことがわかる。さらに体のいろいろな所を調べると、どうも上にいくほど成分が悪い。ここで興味深い推理がひとつ。浄財として集まった当時の流通貨幣をべースに鋳造されたのではないかと考えると、下のほうから造られた大仏は、その時その時の流通貨幣の質を、まさに体現していることになる。気の毒なことに、最後に造られたお顔のころは、質のよくない宋銭が出回っていたらしい……。
このように、歴史的な資料や、考古学的な考察と、うまく結びついてゆく時、「ハイテク考古学」は力を発揮する。
赤外線写真を使っての壁画の復元、光ファイバーでのぞく古墳、X線画像によるミイラの分析、などなど。読んでいて、まことにワクワクする。
こういう方法について、考古学を愛する人の中には「なんでもキカイで調べてコンピューターに入れればいいってもんじゃないよ。味気ないなあ」と、反発を感じる人もいるかもしれない。そういう人にこそ、読んでほしい、と思う。
ハイテク技術は、いろいろなことを解き明かしてくれる。が、それは決して夢をこわし想像力を失わせるものではない。むしろ、夢をふくらませ、さらに想像力を刺激してくれるものなのである。
ナスカの地上絵を写し出す衛星写真、ジンギスハーンの陵墓を捜す人工衛星、――今や宇宙をまきこんでの考古学となりつつある。
大きな貢献をしながら、著者をはじめ、研究に関わっているハイテク畑の人たちが「分析はするが考古学的なコメントはしない」という姿勢に徹している点も、印象に残った。
【この書評が収録されている書籍】
「考古学の人達からみれば我々はインベーダーです。」と言う著者は、人工衛星による地球環境観測などを仕事の中心とする、まさにハイテク畑の人。それが、ひょんなことから考古学の世界へ参加することになった。
きっかけは、鎌倉の大仏さまの「お顔色」。修復の後、何だか以前と変わっているように見えると、心配する住職の話から、科学的に調べてみようということになった。「お顔色」の変化というのは、緑青が原因で、しかも腐食の状態を調べていくうちに、場所によってブロンズの成分がずいぶん違うことがわかる。さらに体のいろいろな所を調べると、どうも上にいくほど成分が悪い。ここで興味深い推理がひとつ。浄財として集まった当時の流通貨幣をべースに鋳造されたのではないかと考えると、下のほうから造られた大仏は、その時その時の流通貨幣の質を、まさに体現していることになる。気の毒なことに、最後に造られたお顔のころは、質のよくない宋銭が出回っていたらしい……。
このように、歴史的な資料や、考古学的な考察と、うまく結びついてゆく時、「ハイテク考古学」は力を発揮する。
赤外線写真を使っての壁画の復元、光ファイバーでのぞく古墳、X線画像によるミイラの分析、などなど。読んでいて、まことにワクワクする。
こういう方法について、考古学を愛する人の中には「なんでもキカイで調べてコンピューターに入れればいいってもんじゃないよ。味気ないなあ」と、反発を感じる人もいるかもしれない。そういう人にこそ、読んでほしい、と思う。
ハイテク技術は、いろいろなことを解き明かしてくれる。が、それは決して夢をこわし想像力を失わせるものではない。むしろ、夢をふくらませ、さらに想像力を刺激してくれるものなのである。
ナスカの地上絵を写し出す衛星写真、ジンギスハーンの陵墓を捜す人工衛星、――今や宇宙をまきこんでの考古学となりつつある。
大きな貢献をしながら、著者をはじめ、研究に関わっているハイテク畑の人たちが「分析はするが考古学的なコメントはしない」という姿勢に徹している点も、印象に残った。
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朝日新聞
朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。
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