書評
『上昇思考 幸せを感じるために大切なこと』(角川書店(角川グループパブリッシング))
強さの源は自己評価の高さ
インテルミラノのサッカー選手、長友佑都の良さとは何か(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2012年)。イタリアのパーティーで場を盛り上げ、中学時代に仲間と流行歌を大合唱。そんな動画が張られたネットの掲示板がある。彼の底抜けの明るさと蛮勇を称(たた)える書き込みが連なっている。
外国で物おじしない度胸、シャイな日本人らしからぬ性格はどこから来るのか? 本書は長友が自らの人生訓を綴(つづ)ったものである。
「つらいときこそ前向きに」「夢に向かって……」。全体を見ると、道徳的過ぎる内容が目立つが、新しい仲間の輪に入るための手法の講釈はためになる。
「“世界共通のわかりやすいバカ”になることも大切」「みんなに溶け込んでいきたいという気持ちをしっかりとみせていくのがいい」。これぞ真骨頂。
かつてFC東京の監督だった城福浩氏は選手たちに自己採点を付けさせたという。自分に10点満点を付けたのは、当時、入団間もない長友だけだった。
こんな調査がある。財団法人・日本青少年研究所が、2011年に日米中韓の高校生の自己肯定感の調査を実施した。結果、ずば抜けて自己肯定感が低かったのは日本の高校生である。
現代において日本的謙譲は美徳にはならない。「どうせ俺なんて」という意識は努力を妨げるものだ。向上の糧となるのは、競争によって上に行けるという意識である。
長友の真価は、自己評価の高さにある。本書は、失敗や敗戦を「いい経験」として受け止め、短所のカバーより長所を向上させようという「上昇思考」を説く。減点方式ではなく加点方式。これが身についていることは何よりの強さの源だ。
今の日本に必要なものはこの力だ。蔓延(まんえん)する自己評価の低さを克服し、“長友力”を身につけることができれば、この国は変わることができるのだ。
朝日新聞 2012年09月02日
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