書評
『ぐりとぐら』(福音館書店)
ときには、アレンジ
息子の二歳健診に行ったときのこと。待合室に『ぐりとぐら』が置いてあった。「わあ、なつかしい!」と手にとったが、そのまま読んでやるには、ちょっとむずかしい。私も確か、幼稚園に行くようになってから読んだ記憶がある。それでも、かわいらしい絵にひかれて「これ、これ」と子どもがせがむので、読みはじめた。
文章が長めのところは、適当にはしょって、絵を見ることを中心にページをめくる。
「ぐりとぐらは、どんぐりをひろったよ。きのこもおいしそうだね~」
「わあ、おおきいたまご! これでカステラをつくることにしたんだって」
そんなふうにしていると、近くにいたママ友が、のぞきこんで言った。
「へーっ、それでいいんだあ。そんなふうにして読むのかあ。私、絵本って一字一句、違えずに読まなきゃいけないのかと思ってた。なるほどねえ」
もちろん、理解できる年齢になれば(そして、これほどの名作ならば特に)、原文どおりに読んだほうが、いいだろう。絵本は、繰り返し読むものだから、耳に残る音は、毎回同じほうがいいとも思う。
「まあ、これは非常手段だけど……でも、せっかく興味を示しているのに、まだむずかしいからダメっていうよりは、いいかなあと思ってね」。私は、そんなふうに答えた。
こういう場合以外にも、「この言い回しはむずかしいな」とか「この言葉はまだ知らないよね」という時には、適当に言いかえて読む。「ウチはおかあさんって呼んでるから、ママじゃなくておかあさんで読もう」とか、そういうこともある。原文を尊重しつつも、状況に応じてアレンジできるのは、生身の人間が読んでいるからこそ、のことだ。
ただ、私は、そのアレンジをしすぎる傾向があるようで、最近は子どもから、たしなめられてしまうこともある。
「おいしい! なんておいしいの! ぞうさんはむしゃむしゃ、かめさんはもぐもぐ、かたつむりさんもくにゅくにゅ、かにさんは、えーっと……カミカミ!」などと調子に乗って読んでいると、じーつと疑いのまなざしを向けてくる。
「それ、どこにかいてあるの?」
「えっ、いやその、そこまでは書いてないけど、ホラ、絵を見てたらなんか楽しくなってきちゃって……」
「ちゃんと、よんで!」
時には、ちゃんと読んでいるのに「いまの、かいてある?」と聞かれることもある。そういうときは「め、を、ま、る、く、し、て」と、平仮名を指でおさえて「ほらね、書いてあるよ」と釈明する。そのせいか、このごろ息子は、字を読むことに興味を持ちだした。勝手におかあさんが創作していないかどうか、チェックしたいらしい。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2006年10月25日
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![ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] / なかがわ りえこ](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/41TQ3K3C6GL.jpg)


































