選評
『できればムカつかずに生きたい』(新潮社)
雄々しく冷静なヒロイン
田口ランディさんの『できればムカつかずに生きたい』を読んでいると、人問の心の深淵という宇宙船の中で、得体の知れないエイリアンに一人敢然と立ち向かうシガニー・ウィーバーを連想しました。雄々しいという言葉がむしろふさわしいヒロインが、考えうるあらゆる手段を使って、姿の見えない敵と戦っているといった印象です。しかも、そのヒロインは、自分のヒロイズム(ヒロインニズム?)に決して酔うことなく、冷静に戦いのあとを見据えているのですからたいしたものです。インターネットという新しいメディアでまず世に問われた文章ということですが、たしかに、ネットだけを唯一の心の支えとする宇宙船「人間号」の乗組員が、どこからともなく迫りくるエイリアンに脅えて、ランディさんのメッセージに救いを求めたという気持ちがよくわかるような気がしました。第一回婦人公論文芸賞にふさわしい受賞作を出すことができて幸いです。
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