書評
『長くつ下のピッピ』(岩波書店)
たっぷりの本に囲まれて
子の友のママが私の友となる粘土で作るサンタのブーツ息子がサンタさんにお願いするプレゼント、クリスマスの直前までころころ変わるので、はらはらさせられた。
「むずかしいパズルがいい」「やっぱりボウケンジャーの電話にする」「アンパンマンのパソコンに決めたよ」「ケーキでも、いいのかな」
紆余曲折を経て、幼児雑誌にのっていたオモチャに決まったが、その過程で「ほん」という発想が出てこなかったのが、私としては、寂しい。
自分が幼いころは、クリスマスにサンタさんにお願いするものといえば、本に決まっていた。十二月になると、母と一緒に本屋さんへ足を運び、どの本をお願いするか、時間をかけて選んだ。そのときに決めた本が、いつも枕元に置かれているので、「どうしてサンタさんには、わかるんだろう。すごいなあ」と思っていた。小学五年生ぐらいまで、そうだった。
『いやいやえん』(中川李枝子作、大村百合子絵、福音館書店・一三六五円)や『長くつ下のピッピ』といった懐かしい本たち。いずれもサンタさんにもらって、繰り返し繰り返し読んだものだ。借りたものではない、自分の本というのは、特別な存在だった。
息子も、大の本好きで、本を読まずに終わる日はほとんどない。本屋さんや図書館に行こうと言うとニコニコするし、宅配便で毎月届く幼児向けの本も、楽しみにしている。ピンポーンとドアチャイムが鳴ると、「あっ、ごほんがきたのかな」と顔がぱっと明るくなる。
けれど、年に一度のプレゼントとなると、本は候補の一つにもならない。それだけありふれた日常のもの、ということなのだろう。はて、それがいいことなのか、どうなのか。
最近引っ越しをしたので、あらためて思ったのだが、息子は実にたくさんの本を持っている。これもよさそう、あれもおもしろそう、こんなのも喜ぶかも……と、ついつい私が買ってしまった結果なのだが、これでは本に対する愛着とか憧れとか、そういう気持ちが育ちにくいのでは、と危惧している。
小学生のころ、毎日本を借りてきては一気に読んでしまう私に、母が言った。
「その本、書いた人はどれぐらいかかったのかな。そんなに早く読んでしまったら、なんだかかわいそう」
本の作者というものを、それまで意識したことがなかったので、これはとてもショックな一言だった。以来、ていねいに読もうという気持ちが芽生えたことを思い出す。
たっぷりの本に囲まれながら、大切に読む姿勢を身につける……息子には、ぜひそうなってほしい。母のような一言を、自然なタイミングで、いつか自分も口にすることができるだろうか。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2006年12月20日
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