書評
『アベノミクス批判――四本の矢を折る』(岩波書店)
狙うは「戦後体制からの脱却」
本書は19世紀のドイツ国民ならぬ21世紀の「日本国民に告ぐ」憂国の書である。リベラル派の立場を鮮明にする筆者の「アベノミクス批判」に対して政権は反論するすべもない。これ以上明晰(めいせき)な批判はないと思われるほど理論的かつ説得的であるからである。アベノミクスの第一の矢、異次元金融緩和は円安・株高をもたらした点で一般的には一応の評価を得てはいるが、著者は具体的なデータを基に「株価の上昇も円安も(アベノミクスとは)別の要因に基づくものであると断言」する。
だから、日銀副総裁に指名された岩田規久男氏が、通貨供給量の増加に伴う「人々の期待に働きかけ」を「おまじないのような話」と発言せざるを得なくなり、その講演録を読んだ著者は「戦争中の『皇道経済学』」を思い出す。
まさに、カール・シュミットが19世紀に向けた「宗教の魔術性は技術の魔術性へと転化した」との指摘が、21世紀の日本で実現したのである。
近代とは経済的側面からみれば成長の時代である。その成長政策(=第三の矢)という「技術」につなげるはずの金融緩和が幻想であるが故に第三の矢も「飛ばず」、名は勇ましい国土強靭(きょうじん)化政策=第二の矢は「予算上実現することはない」と「折った」。
「経済産業省の関係者が書いた」第三の矢を予算で財務省が「無視する」ので、後はイノベーションに期待するしかなく「いつ実現できるかわからないプランが並んでいるだけ」になる。それでも安倍総理が構わないのは「隠された第四の矢」が本命として用意されているからである。
それは「戦後レジーム(戦後体制)からの脱却」である。政治家にとって命より大事な言葉を蔑(ないがし)ろにしたり、財務省が「問題を先送り」したりして現政権は「戦前社会を志向している」という。命を削ってまで世を正そうとする著者の魂の叫びを政治家は真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
朝日新聞 2014年10月12日
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