前書き
『[ビジュアル版]元素から見た化学と人類の歴史:周期表の物語』(原書房)
宇宙のすべては元素でできている――あなたを含めて。
2019年は、ロシアの科学者メンデレーエフが元素周期表を作成してから150年目の年にあたります。また理化学研究所のチームの森田浩介さんらが10年近い年月をかけて研究・発見した113番元素nihonium (ニホニウム、元素記号Nh)を含む4つの新元素の名前が確定して118元素が出そろい、周期表の第7周期までが完成したことを記念し、ユネスコと国際連合が2019年を「国際周期表年」として祝うことを宣言しました。
元素は世界の構成要素であり、これを探求することは、物質の存在にかかわる基礎研究を深め、科学技術と社会の発展に大きな貢献をすることになります。
本書に記されているのは元素をめぐる人類の探求と発見の歴史です。古代から現代まで、化学者や哲学者、錬金術師、そして原子核物理学者たちはどのようにして物質の謎に迫ってきたのでしょうか。『[ビジュアル版]元素から見た化学と人類の歴史: 周期表の物語』のイントロダクションの部分を公開します。
だが、これらの化学物質はどれも、「化学元素」と呼ばれるごく少数の原料でできている。
今日私たちは、118種類の元素がすべての物質を作っているというモデルを使っている。このモデルでは、各元素には固有の原子があり、元素の性質は原子の構造によって決まっている。
さまざまな元素がありとあらゆるかたちで結びついて、自然界に存在する、あるいは、工場や実験室で生み出される、すべての化合物を形作る。
天文学者ウィリアム・ハギンズは、元素は地球にとどまらず、宇宙の全域に行き渡っている根本的なものであることを認識していた。
彼が言う「普遍的な化学」は、この200年の間に人類があげた卓越した成果のひとつである、元素周期表に表されている。
人間を取り巻く混沌とした物質世界に、周期表がどれほど秩序をもたらしたかは、科学の最大の物語のひとつだ。私たちが、化学元素がいかに振舞い、いかに結合するかを理解でき、元素が関与する化学過程がどのように進行するか予測できるのも周期表のおかげだ。
この理解を私たちが真に自分のものにできれば、化学の力を利用してまったく新しい物質を作り出し、病気の治療から原子力の実用化まで、私たちの必要を満たす目的に利用することができる。
そこにはすべての元素が、対応する原子の構造で決まる順序に並べられている。この原子の構造が、元素の性質と振舞いを決定している。だが、周期表が生まれたとき、誰も原子の構造など知らなかった。じつのところ、原子が存在するかどうかすら、誰にもわからなかったのだ。
化学者たちが周期表の作成に取り組み始めたのは19世紀のことだが、物語ははるか以前に始まっていた。古代ギリシアの哲学者たちは、物質の性質について考察し、素朴な原子論と、私たちを取り巻くすべてのものは、ごく限られた数の、物質の「根」がさまざまな比で結合することによって形成されるという考え方を提唱した。
古代から始まって近代の周期表に至る道は、楽でもなければ真っ直ぐでもなかった。それは2000年以上にわたり正しい道から大きくはずれ、ようやく1660年ごろになってしかるべき軌道に戻ったのだった。
本書では、「物質は限られた数の基本的な化学物質からできている」、「化学元素というものが存在する」、「物質は原子でできている」という、3つの重要な発見に注目して物語をたどっていく。
化学者、哲学者、熱心な錬金術師、そして原子核物理学者の取り組みを紹介するほか、恐ろしい事故に遭った人や、配慮が足りずに苦難を強いられた人、そして科学の進歩に身を捧げた人についても触れる。
つまり本書は、私たちの宇宙がこのように成り立っているのはなぜかを理解するという、ひとつの目標を押し進めるために、時空を超えて共に努力する人々の物語なのである。
[書き手]アン・ルーニー(著述業)、八木元央翻訳
2019年は、ロシアの科学者メンデレーエフが元素周期表を作成してから150年目の年にあたります。また理化学研究所のチームの森田浩介さんらが10年近い年月をかけて研究・発見した113番元素nihonium (ニホニウム、元素記号Nh)を含む4つの新元素の名前が確定して118元素が出そろい、周期表の第7周期までが完成したことを記念し、ユネスコと国際連合が2019年を「国際周期表年」として祝うことを宣言しました。
元素は世界の構成要素であり、これを探求することは、物質の存在にかかわる基礎研究を深め、科学技術と社会の発展に大きな貢献をすることになります。
本書に記されているのは元素をめぐる人類の探求と発見の歴史です。古代から現代まで、化学者や哲学者、錬金術師、そして原子核物理学者たちはどのようにして物質の謎に迫ってきたのでしょうか。『[ビジュアル版]元素から見た化学と人類の歴史: 周期表の物語』のイントロダクションの部分を公開します。
物質のおおもと
私たちを取り巻く世界は、さまざまなものに満ち溢れている。生物にせよ無生物にせよ、「もの」は数百万種類の化学物質から作られている。だが、これらの化学物質はどれも、「化学元素」と呼ばれるごく少数の原料でできている。
今日私たちは、118種類の元素がすべての物質を作っているというモデルを使っている。このモデルでは、各元素には固有の原子があり、元素の性質は原子の構造によって決まっている。
さまざまな元素がありとあらゆるかたちで結びついて、自然界に存在する、あるいは、工場や実験室で生み出される、すべての化合物を形作る。
天文学者ウィリアム・ハギンズは、元素は地球にとどまらず、宇宙の全域に行き渡っている根本的なものであることを認識していた。
彼が言う「普遍的な化学」は、この200年の間に人類があげた卓越した成果のひとつである、元素周期表に表されている。
人間を取り巻く混沌とした物質世界に、周期表がどれほど秩序をもたらしたかは、科学の最大の物語のひとつだ。私たちが、化学元素がいかに振舞い、いかに結合するかを理解でき、元素が関与する化学過程がどのように進行するか予測できるのも周期表のおかげだ。
この理解を私たちが真に自分のものにできれば、化学の力を利用してまったく新しい物質を作り出し、病気の治療から原子力の実用化まで、私たちの必要を満たす目的に利用することができる。
カオスから化学へ
私たちが現在使っている周期表は、これまでに作られた科学文書のなかで、最も濃密に情報が詰まったもののひとつだ。そこにはすべての元素が、対応する原子の構造で決まる順序に並べられている。この原子の構造が、元素の性質と振舞いを決定している。だが、周期表が生まれたとき、誰も原子の構造など知らなかった。じつのところ、原子が存在するかどうかすら、誰にもわからなかったのだ。
化学者たちが周期表の作成に取り組み始めたのは19世紀のことだが、物語ははるか以前に始まっていた。古代ギリシアの哲学者たちは、物質の性質について考察し、素朴な原子論と、私たちを取り巻くすべてのものは、ごく限られた数の、物質の「根」がさまざまな比で結合することによって形成されるという考え方を提唱した。
古代から始まって近代の周期表に至る道は、楽でもなければ真っ直ぐでもなかった。それは2000年以上にわたり正しい道から大きくはずれ、ようやく1660年ごろになってしかるべき軌道に戻ったのだった。
本書では、「物質は限られた数の基本的な化学物質からできている」、「化学元素というものが存在する」、「物質は原子でできている」という、3つの重要な発見に注目して物語をたどっていく。
化学者、哲学者、熱心な錬金術師、そして原子核物理学者の取り組みを紹介するほか、恐ろしい事故に遭った人や、配慮が足りずに苦難を強いられた人、そして科学の進歩に身を捧げた人についても触れる。
つまり本書は、私たちの宇宙がこのように成り立っているのはなぜかを理解するという、ひとつの目標を押し進めるために、時空を超えて共に努力する人々の物語なのである。
[書き手]アン・ルーニー(著述業)、八木元央翻訳
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