書評
『現代うた景色-河野裕子の短歌案内』(中央公論新社)
一つのテーマに沿って、毎回三首の短歌が紹介される。それぞれの短歌の鑑賞文は、テーマについての著者のエッセイでもある。
家族、恋愛、老いといった普遍的なテーマから、夫婦別姓、過労死、単身赴任といった現代的な問題まで。とりあげられる内容は、さまざまだ。
あらためて短歌とは、人間を映す鏡であり、また時代を映す鏡であることだなあと思った。本書は、現代のうた(短歌)の景色であると同時に、うたを窓として見る「現代の景色」でもある。
こういったスタイルの本の場合、大切なことは二点だ。一つは、どういう短歌が選ばれているかということ。そしてもう一つは、どういう散文が寄り添っているかということ。
まず、選ばれている短歌が、とても新鮮なのがいい。「有名歌人から、雑誌、新聞の投稿歌人のものまで、その時その時のテーマに沿って、こだわらず作品を採りあげた。」と「あとがき」にあるように、掲げられる短歌は、唯一「河野裕子」というフィルターだけを通して選ばれたものだ。歴史的ナントカとか歌壇的ナントカとかからは、いっさい自由である。私自身、初めて出会う作者の名前に「わあ、この人の他の作品も読んでみたいなあ」と思うことが、たびたびあった。
そして、付けられた鑑賞文がまた、実に自在で読みやすい。たとえば、子育てや夫婦の問題を語るとき、著者は自分自身にぐうっと引きつけて語っている。引用された短歌の作者と、常に同じ地平に立って、ものを言おうという姿勢が爽やかだ。エッセイとしての魅力が、そこから生まれる。そしてときには、著者自身の短歌も登場させて、実作者としての立場を存分に活用するあたり、説得力も充分だ。現代短歌を読む楽しさを、教えてくれる一冊である。
【単行本】
【この書評が収録されている書籍】
家族、恋愛、老いといった普遍的なテーマから、夫婦別姓、過労死、単身赴任といった現代的な問題まで。とりあげられる内容は、さまざまだ。
あらためて短歌とは、人間を映す鏡であり、また時代を映す鏡であることだなあと思った。本書は、現代のうた(短歌)の景色であると同時に、うたを窓として見る「現代の景色」でもある。
こういったスタイルの本の場合、大切なことは二点だ。一つは、どういう短歌が選ばれているかということ。そしてもう一つは、どういう散文が寄り添っているかということ。
まず、選ばれている短歌が、とても新鮮なのがいい。「有名歌人から、雑誌、新聞の投稿歌人のものまで、その時その時のテーマに沿って、こだわらず作品を採りあげた。」と「あとがき」にあるように、掲げられる短歌は、唯一「河野裕子」というフィルターだけを通して選ばれたものだ。歴史的ナントカとか歌壇的ナントカとかからは、いっさい自由である。私自身、初めて出会う作者の名前に「わあ、この人の他の作品も読んでみたいなあ」と思うことが、たびたびあった。
そして、付けられた鑑賞文がまた、実に自在で読みやすい。たとえば、子育てや夫婦の問題を語るとき、著者は自分自身にぐうっと引きつけて語っている。引用された短歌の作者と、常に同じ地平に立って、ものを言おうという姿勢が爽やかだ。エッセイとしての魅力が、そこから生まれる。そしてときには、著者自身の短歌も登場させて、実作者としての立場を存分に活用するあたり、説得力も充分だ。現代短歌を読む楽しさを、教えてくれる一冊である。
【単行本】
【この書評が収録されている書籍】
初出メディア

短歌現代(終刊) 1994年11月号
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