書評
『昼の学校 夜の学校+』(平凡社)
写真の本質、率直な言葉で
森山大道が正面切って写真を語った本である。写真家志望の若い学生を相手にした質疑応答の記録だから、言葉は分かりやすく、ストレートだ。森山は〈写真〉という生き方の本質を留保なく差しだす。そこには、四十数年写真だけに生きてきた男の、稀有(けう)の世界把握がある。大げさでなく、表現者として生きていく勇気を与えられる本だ。
使うのは主にコンパクトカメラのリコーGR21で、ジーパンの尻ポケットに入れて街に出て撮る。写したはしから忘れて、フィルムを二千本撮るとカメラが壊れる。その二千本で写真集を一冊作るとなると、朝の九時から夜中の三時まで、一カ月以上暗室にこもって初めてプリントを焼く。そんな恐るべき量から、ある質をもった写真が生まれてくる。
そこまでして何を撮りたいのか。キーワードは〈欲望〉である。街はあらゆる欲望が渾然(こんぜん)一体となって交差する巨大なスタジアムだ。カメラを手にそこを歩く森山も撮る欲望体になる。欲望のバッテリー、欲望のレーダー。そして、街と人間の欲望の交差点である写真は光と時間の化石になるという。写真とは、卑近と遠大を一気につなぐ奇跡の仕掛けなのだろう。
朝日新聞 2006年10月1日
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