書評
『墓地の書』(松籟社)
言葉遊びからタレ出す現実
サムコ・ターレ、ウンコターレ。日曜の朝からごめんくさい。スロヴァキアの地方都市コマールノで、バックミラーつきの荷車でダンボール回収をするこのターレが、本書の著者にして主人公だというからとってもこまーるの。だって、ターレはスロヴァキア人こそ世界最良と信じて疑わないけれど、彼のまわりはお馬鹿な人ばっか。雷に打たれて以来、キノコで人類を救済する使命を帯びたおじさんとか、おさわりさせてくれる女性だけ占うアル中の老いぼれとかほかにもいろいろ。
ぼくは阿呆(あほう)じゃない、と病気のせいで心身ともに成長しないターレが、現実を額面どおりに語れば語るほど、言葉と現実は裏切りあい、その裂け目から瘴気(しょうき)のようにタレてくる黒いユーモアが、読者の正気をも笑いのなかで宙づりにする。共産党独裁の時代、われ知らず密告者だったターレがいまタレこむ相手はたーれ? もちろんそれは読者であるわれわれ。そうだろう?
そうだとも。
朝日新聞 2012年6月24日
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