書評
『よく生き よく笑い よき死と出会う』(新潮社)
いつも死を思え
「哲学とは、死の意味を考えること以外の何ものでもない」とキケロは看破している、ということを、私はこの本で知った。なるほど、来しかた行く末をよくよく案じてみれば、生は、結局その死によって全きものとなるを得る。私自身は哲学の徒ではなく、一箇の文学の徒に過ぎぬが、しかし、つきつめていけば哲学も文学も、人がいかに生きるか、すなわちまたいかに死ぬるかということを、形を変えて追求しているのにほかならぬ。
本書にまた曰く、「人生も、死によって完成に導かれた生涯から、その意義が明確になる」と。
デーケン博士は神父さんでもあるけれど、この本はただキリスト教的な死生観をのみ喧伝するのでなくて、もっと広く、哲学の分野に思惟を及ぼし、儒教や仏教にまで公正無私な態度で接しつつ、何教の信者にも違和感なく、しみじみと読めるように書かれている。
元来、本書は上智大学での博士の最終講義筆記をもとに増補されたものであるが、温雅なユーモアを交えつつ懇々と語り進んでいく筆致はあくまで平明で説得力に富んでいる。
いつも死を見据えて、今を照らすという態度からは、「もしかしたら明日はないかもしれない。そのくらいの気持ちで、今日一日を大切に過すのです」という真摯な生命観が導かれ、老・病・死などの艱難をも、これを一つの挑戦と観念して「いつも積極的に応戦していく態度を身につけること」を教えてくれる。
多くの苦難を乗り越えた豊かな人生経験を静かに語りながら、この本は、いつしか私たちに生きていくことの勇気を与えてくれる。
読後感頗る馥郁たる名著である。
初出メディア

スミセイベストブック 2008年6月号
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