書評
『米国製エリートは本当にすごいのか?』(東洋経済新報社)
“4年で480冊”のすごさ
うまいタイトルだなぁ、と感心する本がときどきある。佐々木紀彦『米国製エリートは本当にすごいのか?』もそうした1冊。著者は経済誌の記者で、2年間休職して米スタンフォード大学大学院に留学した。そのときの体験について書いたのが本書である。でもこれがもし『慶大卒経済誌記者の米国留学体験記』とか『私が見たアメリカの大学院』なんて書名だったら売れなかったろう。
反語的タイトルの裏にあるのは、「全然すごくない」か「やっぱりすごい」のどちらかである。で、この本を読むと、アメリカの一流大学でも学部はたいしたことないけど、大学院でおこなわれるエリート教育はすごいよ、ということがわかる。
興味深いのは、米国のエリート教育では経済学と歴史学を重視しているという話。経済学は今の世の中を深く理解するのに必要だし、過去に学ばなければ前進はない。こういう話を読むと、いまだ東大法学部卒を頂点とする日本のシステムは時代錯誤なのかとも思う。
また、学部生には大量の本を読ませ、レポートを書かせ、発表や討議をさせるという話にも、なるほどと思った。その量、4年間で推計480冊。アメリカで電子書籍が売れるはずだ。
アメリカの大学/大学院教育には、いろいろ学ぶべき点も多いとは思うが、日本にアメリカ的エリートは必要だろうか? こうやって育てられたエリートが何をやったかというと、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガン攻撃、イラク侵略。ろくでもない戦争ばかりだ。米国製エリートはマイナスの意味ですごいかも。
日本の政治的指導者は小物ばかりで、とくに近年は賞味期限1年程度なのだけど、アメリカほどは外国の人びとに迷惑をかけていない(まあ、それも原発事故で怪しくなったわけだが)。私の持論は、強いリーダーなんていらない、首相はくじ引きで選べばいい、というものだけど、本書を読んでますますその意を強くした。
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