書評
『アンゲラ・メルケル演説選集: 私の国とはつまり何なのか』(創元社)
ロシアのウクライナ侵攻とその後の各国の動きを見て、ベルリンの壁崩壊の意味を考えている時に出会った。タイトルは、メルケルドイツ首相(当時)が2021年ドイツ統一記念日に行った演説のそれである。統一がもたらした平和と自由の重要性を指摘し、多様性はその表れだと言う。統一による共属意識から変化を受け入れる姿勢と連帯感が育ったのだと語り、彼女が東側出身であるが故に無価値の荷を背負っているとか見習い中の連邦共和国人とか言われることに疑問を呈する。実はドイツでは、今も要職の多くが西側だった人で占められているようだ。演説ではこの状況に疑問を示しつつ、皆で民主主義への敬意を示し続けようと力強く語る。15年の難民受け入れのための国境開放時の会見、08年のイスラエル建国60周年にドイツ首相として初めてエルサレムで行った演説の二つもある。どちらも難しさを抱えており、すべてよしとなってはいない。しかし、どの言葉も自身のものであり心動かされる。政治家が人道的な判断や行動をするのがあたりまえという社会になってほしいものだ。
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