トランプ関税の問題や地政学リスクの増大で、不安定化する世界経済。エブリシング・バブルの崩壊はいかなる変化を世界にもたらすのか?
はじめに……トランプ大統領は2025年4月2日に全世界にむけて相互関税を発表した。トランプ大統領の関税発表をライブで聞いていたが、耳を疑う単語ばかり聞こえてきた。
「この数十年間米国は敵と友人問わず外国に略奪され、レイプされ、搾取されてきた。外国のリーダーは我々の職を奪い、外国の詐欺師は工場を荒らし、外国のスカベンジャーはかつて綺麗だったアメリカンドリームを壊した」と発言していたのだが、まるで1930年代にタイムスリップしたような感覚になった。なぜならば世界主要国のリーダーによるここまでゼノフォビックな(外国人に対して嫌悪感をもつ)内容の演説は約100年ぶりだからである。当然ながら関税発表も単なる経済政策の変更ではなく、まるで全世界に対する宣戦布告のように聞こえた。世界市場もトランプ大統領のメッセージを真剣に受け取ったため、主要国の株式指数は短期間で大暴落した。日米欧の株式市場は一日で500兆円を超える時価総額が消えてしまった。日米の株価の暴落の規模としては、2020年のコロナショック以降で最大であったが、2025年の4月7日の中国株の下落が最も大きく、これはリーマンショック以来の規模だった。
今回の騒動は後に「トランプショック」と知られるようになるだろうが、問題は嵐が去ったのか?、まだ続いているのか?、の判断である。残念ながらこの本を書いている時点では、まだその答えは出ていない。しかし一つだけ言えるのは、今の米国の方向転換をトランプ一人のエキサントリズムとしてとらえるべきではないことだ。
第一次トランプ政権は中国製品に3000億ドルの関税を課した。民主党は当初をこの政策を猛烈に批判していたが、バイデンが大統領になった後も、これらの関税を撤廃しなかった。撤廃するところか、3000億ドルのうちの150億ドル分については追加関税さえも導入した。また、中国製の電気自動車(EV)に100%、太陽電池に50%、電気自動車用のバッテリーに25%の追加関税を発表したのもバイデン政権だった。
米国は第二次世界大戦後に民主主義と自由主義の世界的なパトロンとなり、ソビエト連邦や中華人民共和国に代表される権威主義国家に対抗した。米国の経済システムの基礎は資本主義と自由貿易だった。自由貿易とは関税やクオータ(割り当て制限)などがない、国の介入を受けないで自由に行う貿易のことを意味する。この反対にあるのは中露が今でも実施している重商主義とそこから派生する保護貿易主義である。
トランプの関税政策がは彼の思いつきではなく、合衆国のスタンス変化だとするならば、これは第二次世界大戦以降続いた世界秩序が大きく変わることを意味する。
歴史を見ると大きなパラダイムシフトがおきてから新秩序が出来上がるまでには政治や市場の混乱がしばらく続くことが多いのだ。しかし、変化は必ずしも悪いものではない。トランプ関税をスムート・ホーリー法に例える専門家もいる。スムート・ホーリー法とは、1930年にハーバート・フーヴァー大統領がサインした関税法案だが、世界貿易を衰退させ、大恐慌を深刻化させたと要因の一つとして悪名高い法案である。今回の関税措置が似たような結果をもたらすことを恐れる専門家もいる。
私は世界大恐慌になるとは思ってはいないものの、行き過ぎた米株バブルの崩壊とブロック経済化の加速をもたらすと予想している。しかし、これは米中新冷戦の開始当初から想定していたシナリオであり、このシナリオに日本へのサプライチェーンの回帰と日本経済・日本株の復活はセットでついてくる。すでにいくつものサインが出ているが、日本が再び世界経済のパワーハウスとなり、日本のソフトパワーがどんどん大きくなっていく時代がスタートしたと、私は確信している。エブリシングクラッシュ後の新秩序では日本が世界の中心国の一つとして大きな役割を果たすことになるであろうし、日本企業も内外から大いに注目されるだろう。もちろんすべてがバラ色になると主張していのではない。しかし、今後30年間はビジネスにおいても相場においても、新たなチャンスがどんどん訪れる環境に恵まれると思っている。
この本は主に「世界が今どこに向かっているのか?」「日米を中心とした世界市場は今後どうなるのか?」などの疑問を抱える投資家のために書き始めたが、結果的には、まだ投資をしていない方や学生の方にとっても、世界情勢の変化や世界経済を分かりやすく理解できるようになる内容になったと思う。
この本が、目まぐるしく変化する社会情勢の中で、読者の皆様が社会や経済の変化を理解するための良き参考書になることを、心から願っている。
2025年4月 東京にて エミン ユルマズ